『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回の記事では、受験を控える親子に知っておいてほしいことについて、孫氏と『5科目50年分10000問を分析した東大生の テストテクニック大全』著者の西岡一誠氏の特別対談をお送りします。
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受験を控える親子に知っておいてほしいこと
西岡壱誠氏(以下、西岡氏) 孫さんの本を読んだ上で、強く感じたのが、親も子どもも“アップデート力”が求められる時代になったな、ということです。情報がどんどん古くなっていくじゃないですか。受験制度もそうだし、大学の中身もそう。特に総合型選抜って、毎年のように新しい方式が出てくるし、同じ大学でも入試の形が変わっていく。だから、情報を取りに行ける人と、取りに行けない人で、進路選択がまったく違ってしまうだろうな、と。
孫辰洋氏(以下、孫氏) 本当にそうですね。総合型選抜を見ていると、“知っているかどうか”で人生が変わる瞬間が、普通にあります。昔、こんな子がいました。エジプト文化が好きで、ずっと調べていて、本も読んでいる。でも本人は、『そんなの大学入試で意味ないですよね』って言うんですよ。つまり、“好きなこと”があるのに、それがどこにもつながらないと思い込んでいる状態です。
西岡氏 いますよね、そういう子。好きなことがあるのに、受験に関係ないと思って、そこで諦めちゃう。
孫氏 そうなんです。でも、その子に僕が『筑波大学にはエジプト文化に関する研究ができるところがあるよ』って伝えたら、一気に目の色が変わりました。『え、そんな学べる場所があるんですか?』と。そこからは早かったですね。自分の好きなことと、大学の学びがピタッと接続した瞬間に、行動が変わる。調べる量も、言語化の熱量も、発表の説得力も別人みたいになっていった。結果として、その子は筑波大学の総合型選抜で合格しました。
西岡氏 すごい話ですね。でも、今の話って“才能”というより、“情報”の話なんですよね。エジプト文化が好きだったことよりも、『筑波にそういう研究がある』と知れたことが、勝負を決めている。
総合型選抜は情報勝負
孫氏 まさにそこなんです。総合型選抜は、努力勝負でもあるんですけど、かなりの部分で“情報勝負”でもある。自分の興味関心が、どこで学べるのか。どんな先生がいるのか。どんな研究ができるのか。そこに辿り着けるかどうかで、勝負が決まることがあるんです。好きなことがあっても、それを社会や大学に接続できないと、ただの趣味で終わってしまう。でも情報を取りに行けると、趣味が“進路”に変わるんですよ。
西岡氏 最近は新しい大学や学部もどんどん出てきていますよね。僕がよく例に出すのは、恐竜学部とか、コスメティックサイエンス学環みたいな、ちょっと前なら『そんな学部あるわけない』って言われていたような分野です。でも実際に“ある”。しかも、そういうところを目指す子が増えてきている。
孫氏 そうですね。昔なら『医学部、法学部、経済学部』みたいな定番の進路しか見えなかったけれど、今はもっと細かい専門性で学べる場所が増えています。逆に言うと、定番の選択肢だけで進路を決めるのって、もったいないんですよね。情報をアップデートして取りに行けば行くほど、『自分に合った大学』が見つかる確率は上がっていく。
西岡氏 令和の受験って、結局そこだと思うんです。ネットを使ってちゃんと調べられるかどうか。情報収集の質で、受験の結果が変わってしまう。極端な話、同じ偏差値帯の大学を受けるとしても、片方はその大学のことをめちゃくちゃ調べていて、学部の特色も、先生の研究も、カリキュラムも理解している。もう片方は、受ける大学は決まっているのに、ホームページすら見ていない。平成までなら、後者でも“受かることは受かる”が成り立ったかもしれない。でも、令和は絶対に無理です。
一般入試で志望理由を聞かれることが増えている
孫氏 それは本当にそうです。総合型選抜や推薦はもちろんですけど、一般入試でも“志望理由”を聞かれる場面が増えてきていますからね。
西岡氏 そうなんですよ。一般入試って、昔はペーパーテストだけで完結していたイメージが強い。でも今は、志願書を出すときに『なぜこの大学を志望しましたか?』みたいなアンケートを取られることもある。もちろん、それで合否が決まるわけではないんですけど、大学側が『受験生がどれだけ大学を理解しているか』を気にするようになっている時点で、時代が変わっている。受験のルールそのものが変わっているんです。
孫氏 大学側からすると、入ってからのミスマッチを減らしたいという事情もありますし、入学後にちゃんと学ぶ学生に来てほしいという意図もあります。だから“調べている子”は強い。自分の興味と大学をつなげられるし、入ってからの学びのイメージも持てる。そういう子は、総合型選抜ではもちろん評価されるし、一般入試で入ったとしても、その後の伸びが全然違います。
西岡氏 しかも東大ですら、新しい学部を作る時代ですもんね。昔からある学部だけが全てじゃない。だから親世代の感覚で『大学ってこういうものだよね』と決めつけた瞬間に、情報が古くなる。親も子どもも、アップデートし続けないといけない。
孫氏 はい。総合型選抜は特にそうで、“去年の常識”が今年は通用しないことが普通に起きます。新しい方式が出てきたり、求められる書類が変わったり、評価のポイントが変わったりする。だからこそ、情報を取りに行ける家庭が強い。親が全部教える必要はないんです。でも、子どもが情報を取りに行くための環境を作ることはできる。『一緒に調べてみよう』と言ってあげるだけで、子どもの世界は一気に広がります。
西岡氏 結局、“勉強ができるかどうか”以前に、“情報を取りに行けるかどうか”が、令和の受験の土台になっている。どこで何が学べるのかを知っている人が、勝つ時代なんだな、と改めて思います。
中高では学力が芳しくなく、2浪という厳しい状況の中で、自分自身の学びを徹底的に見直し、独自の勉強法を確立。これにより偏差値35から偏差値70まで成績を伸ばし、東京大学に合格を果たす。この経験をもとに、学びに悩む学生たちに希望を届ける活動を展開中。『東大読書』(2018年、東洋経済新報社)など、勉強法や思考法の研究と実践に基づいた著書はベストセラーとなり、多くの受験生や教育者から支持を集めている。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』に関連する対談記事です)




