沸騰!エンタメビジネス#2Photo by Yoko Suzuki

一見「最高」だったソニーグループの中間期決算。エレクトロニクス企業からエンターテインメント企業へと変貌し、映画などのヒット作にも恵まれて連結営業利益は前年同期比20%増加した。だが、エンタメ事業の中核のゲーム事業には気になる課題が浮き彫りになった。連載『沸騰!エンタメビジネス』の第2回では、最高潮決算の裏にあるゲーム事業の「不穏」を気鋭のアナリストが読み解く。(東洋証券アナリスト 安田秀樹)

エレクトロニクス企業から総合エンタメ企業になったソニー
絶好調音楽事業の裏で見えた、ゲーム事業の思わぬ苦戦

 ゲーム、音楽、映画のコンテンツ事業が営業利益の過半を占め、すでに総合コンテンツメーカーと表現したほうが適切な企業となったソニーグループ。音楽事業とゲーム事業出身の平井一夫氏が2012年に社長に就任した際に、筆者はソニーがコンテンツ企業になる時代の象徴と評していたのだが、この予測は正確だったと言えるだろう。

 グーグルや、アップル、アマゾンなどのビックテック企業が寡占的な地位を持つストリーミングサービスのさらに上流で、ソニーグループはコンテンツを供給することで成長と利益を実現している。音楽、アニメ、映画はコンテンツが蓄積するほど、配信で収入が得られるコンテンツなので、リカーリングビジネスに向いている。しかも作品が完成すればデジタルデータをサーバーに置くだけでよく、効率性は非常に高い。

 今、株式市場では資本コストを重視する経営が要請されており、効率よくいかに稼ぐかが株価に影響を与えている。この環境にソニーグループは適応し、コンテンツメーカーとして大きく成長することができた。

 そんなコンテンツ企業であるソニーグループの26年の中間期決算は「非の打ち所がない」内容だった。連結売上高は5兆7295億円で前年同期比3.5%増、営業利益は7689億円で同20.4%増。そのけん引役は音楽・映画・ゲームのエンターテイメント事業だ。

 音楽事業の第2四半期業績(7~9月期)は、売上高が前年同期比21%増の5424億円、営業利益は27.7%増の1154億円と大幅な増収増益だった。子会社アニプレックスが手掛けるアニメ劇場版「『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」や、実写邦画の「国宝」がヒットした。また、ストリーミング配信から継続的に得られる収益も拡大傾向にある。

 鬼滅の刃の興行収入は1000億円を超えたが、その過半が米国を主とした海外である。かつて米国では人気が無かった日本のアニメだが、種々の施策によりZ世代より下の層に浸透が深まっている。コロナ禍を脱してこうしたZ世代が購買力を付け、こぞって見るようになったことが好調を支えたといえるだろう。

 一方、もう一つのエンタメ分野の中核事業であるゲームに関しては、課題と不安要素が垣間見える。プレイステーション(PS)5デジタルエディション(DE)は実質値下げを余儀なくされ、ライバルの任天堂がSwitchとSwitch2で日本市場を制圧する中、PSは低シェアに沈んでいるのだ。何故こんな状況になったのか。次ページから詳細に見ていこう。