
任天堂にとって8年ぶりとなる新ハードNintendo Switch2が6月に発売される。その売れ行きは今後の業績を大きく左右するが、その初年度販売計画を巡り、投資家やユーザーを巻き込み炎上が起きているのだ。特集『激動!決算2025』の本稿では、その波乱の中身を紐解こう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
当選は超難関Switch2が早くも入手困難に!
「業績の上振れ確実」は本当か?
「京都企業の自虐決算だ」――。8年ぶりの新ハード、Nintendo Switch2を6月に発売する任天堂。5月8日の決算発表を終えて、半ば「怒号」にも似た声が投資家の間では飛び交っている。
Switch2は、一定期間Switchのプレー実績があるなどの限定ユーザーを対象に4日に任天堂の公式サイトで予約が始まったものの、初日に日本だけで220万人が殺到。24日の当選発表では全体の応募者のうち半分以下程度しか当たらなかったとみられ、阿鼻叫喚(あびきょうかん)となった。
Switch2の初年度の販売計画は今後の任天堂の業績を大きく左右する。だが、その見通しは会社側のあり得ないほど保守的な出荷見込みによって、一期に不透明になっている。
まずは「任天堂にとってSwitchというプラットフォームが何を意味するか」を、歴史的経緯も含み確認していこう。
任天堂はかつて、ハードの当たり外れの波が激しく、新ハード発売の度に業績がゆれる企業でもあった。2004年度にニンテンドーDS、06年度にWiiの発売を経て08年度に売上高1兆8386億円と最高売上高を記録。そのわずか3年後の11年度には後継機のニンテンドー3DSとWii Uの不振により営業赤字に転落、とその業績はまるでジェットコースターのように乱高下していた。
その不安定さから任天堂を救ったのが、携帯機と据え置き機を兼ねるSwitchという救世主だった。
Switch以前に最もヒットしたハードであるDSとwii全盛期時代の05年度から10年度までの6年間の平均営業CFは1966億円だった。一方、Switch発売後17年度から24年度までの平均は2961億円におよぶ。据え置き・携帯の二つのハードとソフトに開発費を割かれる非効率から脱し、1種類のハードとしては最長の期間稼ぎ続けた。Switchは任天堂にとって勝利の方程式だったのだ。
Switch2は、その方程式を維持する、つまりSwitchのマイナーチェンジにすぎない新ハードだとも表現できる。だが、4月2日の自社サイトでの発表では、自社タイトルであるマリオカートや星のカービィ、ドンキーコングの新作に加え、フロム・ソフトウエアのエルデンリングや、フロムの完全新作タイトル、ファイナル・ファンタジーや龍が如く、米EAのスポーツゲームなど、これまではプレイステーション(PS)でしか出されてこなかった人気ハイエンドゲームが大量に発売されることが発表された。いわば、Switchというコンセプト以外は任天堂のこれまで苦手としていたところを全て補完するような、「全部盛り」でラインアップをそろえてきており、PS陣営のユーザーを食いにいくと言ってもいい内容となっているのだ。
「Switch2は、ローエンドかつファミリー向けというSwitchのイメージを覆してハイエンドへの進出を果たした。これまで任天堂プラットフォームでも難しかったAAA(超大型)タイトルも大幅に増えそうで、競争力は相当にある。関税や海外での価格の上乗せはあまり問題にならないのでは」と安田秀樹・東洋証券アナリストは見る。
さらに、これまでSwitchが弱かった配信やネットワーク性も強化されており、ゲーム中のビデオチャットや、ソフトを持っていない友人に無償でゲームをお裾分けして一緒に遊ぶことなどもできるようになった。価格も、スペックから考えると破格といっていい5万円を切る(日本語版)水準に抑えられている。
こうしたユーザーの期待を、任天堂側が十分に把握できていなかったということが今回の騒動の背景にある。業績の上振れを確実視する声も多いが、今年度、任天堂はどうなっていくのだろうか。次ページから決算数値の分析とともに見ていこう。