1990年にはアメリカの名馬サンデーサイレンスを種牡馬として日本に導入した(購入額1100万ドル。当時の為替レートで16億5000万円)。サンデーサイレンスは13年連続で「リーディングサイアー(産駒の獲得賞金が第1位)」を獲得する。社台ファームは世界的な競馬集団となった。

 これに対抗して、日高の主だった牧場が立ち上がった。1996年、資金を出し合ってヨーロッパで活躍したラムタラを、3000万ドル(約33億円)という日本競馬史上最高額で購入したのだ。

 バブル崩壊後にもかかわらず、大勝負に打って出た。しかしラムタラの産駒はさっぱり活躍せず、10年後の2006年、購入額の1パーセントにも満たない金額でイギリスに売却された。「ラムタラ事件」とまで形容される日高の敗北史だ。

「『今に見てろよ』って闘志は、みんな持っているよ」

 日高の年配の牧場主が私に言った。

 浦河町出身の作家、馳星周氏の小説にも、日高の小さな牧場から世界的なレースに挑む、人と馬の姿が描かれている(『黄金旅程』2021年。『フェスタ』2024年。ともに集英社)。

GⅠ6連勝のイクイノックスは
種付け料も高額

 しかし、辻啓太さん(辻牧場育成部門の責任者)は、「もうボクらの世代は、社台への対抗心というのはあまりないですね。むしろ、日本にいい血統を入れてくれてありがとう、って感謝さえ感じます」

 今は日高の多くの牧場で、サンデーサイレンスの血を引く馬が飼われている。種馬と繁殖牝馬を交配させる「種付け」は、2月から7月の約150日間に行なわれる(牝馬は日が短い秋や冬は発情しない)。

 社台グループの種馬場である「社台スタリオンステーション」を、日高の牧場主も牧場でトップクラスの繁殖牝馬を連れて訪れる。

 社台グループのノーザンファームが生産育成したイクイノックスは、GⅠ6連勝を飾って4歳で現役を引退した。有終の美を飾った2023年11月のジャパンカップ。上位に入った日高の馬は1頭だけで、他はすべて社台グループの馬だった。

 2024年から種牡馬になったイクイノックスの種付け料は、2000万円。国内で生産された競走馬の初年度種付け料としては史上最高額だったが、即、満口となった。203頭の牝馬と交配したと発表された(2024年9月)。