普段は家族連れが馬と戯れる観光牧場は、富豪たちの社交場、そして勝負の場と化す。初日は1歳馬、2日目は当歳馬(0歳の馬)。私は2023年7月10日と11日に取材した。2日合わせて約470頭が上場された。
セリが始まる前から、会場の外は熱気に包まれる。高級ブランドがブースを構えるのだ。
ファッションブランド「グッチ」は1億円を超えるネックレスを飾り、映画『007』のジェームズ・ボンドが乗る高級車メーカー「アストン・マーティン」は1台3000万円の車を2台展示していた。「馬を落とせなかった悔しさから外車を買った」という人たちが過去に何人もいるからだ。
会場にはサイバーエージェントの
創業者・藤田晋氏の姿も
数百人が入る平屋のセール会場には、進行役がハンマーを手に場を仕切る高い台がある。セリの1頭目を落札したのは「ウマ娘」をヒットさせた「サイバーエージェント」創業者の藤田晋氏。額は2億1000万円。
藤田氏は2日間で計20頭、23億6900万円をつぎ込んだ。セリの空き時間になると、藤田氏の前には名刺交換の列ができていた。
「3億いかがでしょう?」「驚異的な決め脚!」「父はクラシック三冠馬、コントレイル!」「お声なければラストコール!」「〇番のお客様にハンマーが落ちます!」
進行役のハリのある声。「買うぞ」と指を挙げる人。「もう出せないな」と苦笑いする人。
緊張感の中に、私はどこか退廃的な臭いを感じてしまう。非日常。非現実。億超え連発だったコントレイルの産駒でも、3000万円しかつかない馬もいた。
「冗談じゃないぞ」と、その馬を生産した牧場の社長がスマホで誰かに愚痴っていた。
外のガーデンには和洋中の料理が並ぶ。白人男性が陽気にビールを呷る。中国語もあちこちから聞こえる。このセールによく来場する演歌歌手の北島三郎さんや大リーグでも活躍した佐々木主浩さんの姿はなかったが、JRA所属のデムーロ騎手がファンと記念撮影をしていた。私は見なかったが、藤田菜七子騎手(この翌年の2024年引退)も来場したそうだ。







