みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

なぜ圧倒的な実力を持つ競走馬は勝てるレースがあっても、若くして引退させるのか?第51回有馬記念(G1)の後に行われた引退セレモニーで、別れを惜しむファンの前をゆっくりと歩くディープインパクト。騎乗は武豊騎手(千葉・中山競馬場):時事

“近代日本競馬界の最高傑作ディープインパクト”

 ディープインパクトという競走馬をご存じでしょうか?

 シンボリルドルフ以来、21年ぶり史上2頭目の無敗での3冠馬となり、「空を飛ぶ馬」と呼ばれ、名ジョッキー武豊をして「これ以上強い馬がいるのか」と言わしめた近代日本競馬界の最高傑作です。

 レースでは圧倒的な強さを誇り、引退レースの有馬記念でも2着に大差をつけ、堂々の1着となりました。そのスピードを見るとまだまだ現役で戦えることは間違いなかったと思いますが、惜しまれつつも引退することとなりました。

 競走馬のピークは4~5歳といわれ、6歳でも現役で活躍している競走馬が多数存在します。しかし、ディープインパクトは圧倒的な強さを誇りながら4歳という若さで引退してしまいました。

 プロ野球で例えると3冠王を獲得したヤクルトの村上宗隆選手が3冠王を獲得したシーズンで引退するようなものです。プロスポーツ選手であれば、ピークが過ぎても体力の限界を迎えるまで現役を続けるのが一般的だと思います。自分の記録を伸ばしたいというのもありますし、一秒でも長く競技を続けたいと思うことでしょう。また現役であれば収入面でもある程度の金額は保障され、経済的な安定も得られるはずです。

 同様にディープインパクトも現役を続けていれば、1着の賞金が億超えのG1レースで優勝することができたはずですし、レースでの獲得賞金も過去最高の記録を塗り替えることもできたと思います。

引退後に現役時代の何十倍もの収入をあげる

 実はディープインパクトに限らず、優秀な競走馬は圧倒的な強さを見せながら引退していくことは少なくありません。競走馬としてデビューするまで馬主は多額の費用を負担するため、やっと賞金を稼げるようになったのであれば賞金で投資額を回収しようと考えます。しかし、圧倒的な実力を持つ競走馬ほどピーク時に若くして引退させることが多いのです。

 絶頂期に引退した山口百恵のように、愛馬には最高の姿の印象をファンに残してあげたい親心なのでしょうか? いえいえそんなことはありません。やはりそこは大人の世界。圧倒的な実力を持つ優秀な競走馬はその後のレースで稼ぐ以上の収入を得られる道があるのです。それは何かというと種牡馬としての収入です。

 本当に優秀な競走馬はレースで稼ぐ賞金をはるかに凌ぐお金を種牡馬として稼ぎます。ディープインパクトが生涯レースで獲得した賞金は14億5455万円(ちなみに日本の競走馬として最も多くの賞金を獲得したイクイノックスは、22億1544万6100円)。

 一方、ディープインパクトの種付け料はピーク時には当時世界最高の4000万円でした。多い年には年間200頭以上への種付けを実施しており、受胎率が70%だと仮定してもピーク時には年間50億~60億円の種付け料が入ってきています。

 種牡馬として1年でレースに出ていたのは2歳の12月~4歳の12月までの丸2年なので、一年当たり7億3000万円弱。そう考えると一年当たりに稼ぐ金額は現役時代の8倍程度になります。

 17歳で急死したため、種牡馬として活躍した年数はそれほど長くはないものの、それでも受胎率が70%だと仮定すると生涯に得た種付け料は約370億円と推定されます。

 収入で考えると、一年当たりに稼ぐ金額も現役よりも種牡馬としての方が多いのですが、種牡馬として期待されている競走馬にとってレースに出ることで一番の心配は怪我です。

 サラブレッドは体の構造が脆く、レース中に脚を骨折することも少なくありません。骨折くらいと思うかもしれませんが、人間と違って馬が脚を骨折した際には回復が難しく、薬物により安楽死させるケースが多いのです。馬主としても未来の数百億円を数億円のレース賞金のために失いたくないというのが本音です。

 このようにまだまだ勝てそうな競走馬が若くして引退する裏側には大人のお金の事情があるわけですね。

なぜ圧倒的な実力を持つ競走馬は勝てるレースがあっても、若くして引退させるのか?イラスト/春仲萌絵

(本原稿は、平野薫著なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?を抜粋、編集したものです)