負荷は高くないし理不尽さもない。叱られないし居心地が良い。こうした状況を一言で、「ゆるい職場」と呼ぶことにしよう。

「ゆるい」のに「不安」、という状況が矛盾しているように感じられるだろう。しかし、職場を「ゆるい」と感じている大手企業の新入社員の方が自身のキャリアの不安を感じているという明確な関係も発見されているのだ。 (古屋星斗『ゆるい職場』)

仕事を「やり切る」経験を
得たいのに得られない若者たち

 ブラック企業と呼ばれる職場風土を払拭してホワイト化を進めたら、今度はそれが「ゆるブラック」と言われるようになった。マネジメント側からすると「じゃあどうすりゃいいんだ!?」と頭を抱えたくなるような状況が、2020年代に入って各所で顕在化している。

 この空気は、「安定したい、だから成長したい」という転職者の胸の内を覗いてみるとよく理解できるのではないだろうか。ゆるい職場にいると成長できないのだとすれば、それは自身の今後の安定を保証する基盤を獲得できないということでもある。

 だからこそ、居心地がよくても不安になる。もしかすると、居心地がよい職場だからこそ、そのままの自分でいることを許容されるがゆえに成長実感を覚えづらいのかもしれない。

 働き方改革でフォーカスされたのは主に業務時間についてであり、その過程で生産性といったキーワードが脚光を浴びたものの、実際には多くの職場において単に仕事を刻んで所定の勤務時間を守らせるといった方向で進んでいった。

 相対的に年齢の若い非管理職の社員は中途半端な状況でも時間が来れば業務は強制終了させられ(もちろん指示する側は良かれと思ってやっているケースも多いはずだが)、残った業務は働き方改革以前の時代に会社員人生を歩んできた管理職が引き取ることになる。

 やり切る経験を得たいのに得られない部下と、やり切る経験をさせたくてもさせられない管理職。このすれ違いは、「成長したいのにできない」という言葉とともに伝えられる部下の退職という形で突然明らかになる。

 社会全体が右肩上がりであれば、ほどほどの労働時間で仕事を切り上げられる状況は多くのビジネスパーソンにとってポジティブに受け入れられただろう。しかし、一寸先は闇とでも言うべき今の時代において、この環境を「成長機会の失われた環境」と感じる層が着実に増えつつある。

 成長に囚われる人々が「ホワイト」を「ゆるブラック」と読み替えてしまうのは、世の中を覆う余裕のなさの裏返しなのかもしれない。