しかし、採用を担当する部署と配属先とでは情報は共有されていなかった。「これは困った新人が来たぞ」と上司や同僚たちは思ったことだろう。その会議の失敗の後、すぐに人事課が面談の場を設けてくれ、改めてどういう場面で困り、どういう配慮が必要なのかと聞いてくれた。私自身、聞き取れない場面は伝えることができるものの、ではどんなことに気をつけなければならないのか、全くわかっていなかった。その時には会議や研修で利用できる、県独自の要約筆記者等の派遣制度を作ってもらった。

 ある時は上司が「君はあまり聞こえていないだろ?たとえば『丸を作りなさい」と言っているのに、楕円のような、似ているけれども違うものを作ってくる。気づいているかい?」と言った。「でもそれが私の障害特性なんです!」と大きな声を出しそうになったが、ぐっと堪えた。理解のない、いじわるな上司だとその時は思った。しかし、時間をかけてよく考えてみると「組織の中で貢献していくためには、それではだめということなんだ」と思い至った。

組織の中で戦える「武器」
社会福祉士の資格を取得

 難聴者となって十数年、あいまいな聞こえでその場をやり過ごす「くせ」がついてしまっていた。多くの人は聴覚障害者に対し「聞こえていないだろう?」と面と向かって言うことはせず、ただ陰口をたたくだろう。しかし、その上司は私にまっすぐ伝えてくれた。それからは自分の聞こえが正しいか、自分の言葉で復唱し、丁寧に確認することを心掛けるようにした。上司に連れられて、補聴器店を訪れ、アナログ補聴器からデジタル補聴器に変えた。さらに右耳だけ使っていた補聴器も、両耳装用に変えた。

 公務員は数年おきに異動があり、仕事の内容もがらりと変わる。一番苦労したのは4ヶ所目。クレーム対応も多く、同僚たちが皆ぴりぴりしている職場だった。聞き返しが多いせいか、窓口対応から私だけが外されていた。悔しかった。もっと県という組織の中で戦える「武器(知識)」を身に付けなければと思い、育児休業の期間を利用して社会福祉士の資格を取得した。