将来、インフレがさらに加速したとき、誰がその損失を負担するのか、中央銀行はどこまで国債市場を支え続けられるのか? 財政規律はいずれ回復するのか?

 これらの疑念が積み重なった結果として表れるのが、タームプレミアムの上昇だ。

 本コラム『「タームプレミアム」上昇で2%に迫る長期金利、日銀の政策金利引き上げが必要』(2025年12月18日付)で指摘したように、タームプレミアムとは、インフレの不確実性や財政悪化懸念、中央銀行の政策信認低下などに対する「上乗せリスクプレミアム」だ。

 いまは、これが財政悪化懸念などで上昇しているために長期金利が上昇する。金利が上昇すれば、金融抑圧は成功しない。

 つまり、タームプレミアムとは、市場が金融抑圧に対して発する静かな抵抗といってよい。それは、「これ以上、リスクを無償で引き受けることはできない」という意思表示なのだ。

 これは、金融抑圧の持続可能性に対する疑念、中央銀行の信認に対する評価を反映している。つまり、タームプレミアムの上昇は、市場が政府と中央銀行に対して突きつける「将来に対する不信の価格」に他ならない。

 日本は、財政拡張や超低利政策による需要喚起で成長することに失敗し、いま、金融抑圧によって財政を支えようとしている。市場はこうした日本の経済政策の限界を、タームプレミアムの上昇として突きつけ、警告し始めているのだ。

破綻回避の「時間稼ぎ」でなく
財政の持続性、金融政策正常化加速を迫る

 黒田前日銀総裁時代のイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)は、タームプレミアムを強制的に消し去るための制度的装置だった。しかし植田日銀では、YCCが解除され、政策の操作目標は短期金利に戻され、長期金利は市場での形成に委ねられている。他方ではインフレが定着し、財政拡張が常態化する状況で、市場が「将来のインフレと財政」を再評価し始め、タームプレミアムが復活した。

 タームプレミアムの上昇は、日本経済に対して成長力の回復や財政の持続可能性、金融政策正常化の加速を迫っている。

 この意味でタームプレミアムの上昇は、金融抑圧の動きを押しとどめる力として作用する。このところの長期金利上昇は、財政破綻に行き着くまでの「時間稼ぎの限界」を市場が告げ始めたサインであると捉える必要がある。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)