日銀の利上げで「トクする人」と「ソンする人」の決定的な違い写真はイメージです Photo:PIXTA

日銀が政策金利を30年ぶりの水準に引き上げた。経済全体で見ると、住宅ローンを抱える30~50代の現役世代は、負担が増える可能性が高い。対して、預金などの金融資産の蓄積の大きい60代以降の世代は負担が減ることも考えられる。他方で気がかりなのは物価高と円安だ。高市政権下、国債費は初の30兆円になる見通し。財政の一段の悪化、円安がさらに進行する懸念もある。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

追加利上げで円安が加速...
日銀の金融政策は後手に回っている

 12月19日、日本銀行は予想通り0.25%の追加利上げを決定した。わが国の政策金利である、無担保コール翌日物レートの誘導目標は0.75%に上昇した。今回の利上げにより、わが国は本格的に“金利のない世界”から、“金利のある世界”に一段と回帰することになる。

 これまでの金利のない状況では、銀行にお金を預けても、国債を購入しても、ほとんど金利は付かなかった。一時、わが国の10年国債の流通利回り(長期金利)は、マイナス圏に沈んだことさえあった。お金を借りても利息がもらえる。理屈では考えにくい世界だ。

 そうした状況が少しずつ、正常な世界に戻りつつある。金利のある世界では、住宅ローンや自動車ローン、カードローンそして企業の銀行融資などの借入金利は、基本的に上昇する。お金を借りる側の金利支払い負担は増える一方、預金者が受け取る預金金利も上昇する。

 経済全体で考えると、住宅ローンの支払い増加などで家計の使えるお金が減り、国内需要が下押しされる懸念はある。逆に、預金など金融資産を持っている人は、使えるお金が増えることも期待できる。

 見逃せないのは、わが国最大の債務者が国=政府であることだ。金利のある世界で、国債費(国債の元利払いに充てられる費用)は増加し、財政状況が一段と悪化することも考えられる。

 物価動向も気がかりだ。19日の金融政策決定会合後、円金利が上昇したにもかかわらず円は下落した。政策金利は0.75%に上昇したが、それでもわが国の実質金利(名目金利マイナス物価上昇率)はマイナスだ。理屈で考えると、実質金利がマイナスの通貨を保有する意義は見当たらない。

 それに加えて、会見で日銀の植田総裁は、今後の利上げのペースや時期などを明確にしなかった。海外の投資家は、「日銀の利上げペースは極めて緩やかで、円安が続く」とみたのだろう。19日のニューヨーク時間、円は1ドル=157円75銭に下落して引けた。日銀の金融政策は後手に回っている印象だ。今後、日銀の金融政策は一段と難しくなるだろう。