量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はイノベーションの効率化と自然界の秘密について抜粋してお届けする。
Photo: Adobe Stock
イノベーションが加速する
膨大な計算資源を使って学習した大規模言語モデルは、人間なら二十年ほどかけて身につけるような知識や表現力を、クラウド上の計算機サーバーに問い合わせるだけで、瞬時に返すことができる。
これまでコンピュータの中心的な役割を担ってきたのはCPUだったが、ディープラーニングや生成AIの登場によって、いまでは並列処理に強いGPUが急速に存在感を増している。
さらに、量子力学の原理を活用する量子コンピュータも有力な選択肢として浮上してきた。
これらの研究が発展し、膨大な演算を高速かつ効率的に行えるようになれば、あらゆる分野での革新的なアイデア創出が加速し、イノベーションの効率化が格段に進むと予想される。
自然界の秘密に迫れるか
自然界は地球や生命の進化という長い年月をかけた最適化のなかで、光合成や窒素固定といった良い仕組みを見つけてきた。
ヨーロッパコマドリなど渡り鳥の磁気を感じる能力にも、量子力学が利用されている。
鳥の目には「クリプトクロム」というタンパク質を含んだ特殊な視覚細胞が存在している。
鳥の目に太陽からの光が入ると化学反応が起こり、磁気に敏感に変化する量子もつれ状態が作り出される。
この変化に基づいて化学反応が連鎖し、コマドリは磁気を視覚情報として「見る」ことができるのだ。
解き方がわかれば応用できる
私たち人類は、このような自然界が見つけた仕組みの「答え」だけを見せられており、その「解き方」はわからない。
量子コンピュータを用いて、これらのメカニズムを量子レベルで解析し、理解することで新たなものづくりやイノベーションへと発展させることができるはずだ。
そのためには、もっと大規模な量子コンピュータが必要になり今後十年規模の開発が必要になるが、それでも地球の進化に要する年月に比べれば圧倒的に早い。
コンピュータが人間よりも効率よくイノベーションを作り出せるようになるにつれて、ますます人間のイノベーションにおける役割が問われるようになるだろう。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





