習近平政権がとるべき
重要思想&指導原理とは
2011年秋のことだった。
私は北京で、中国共産党内でイデオロギーと政策決定をつなぐための「理論武装」を担当する当局が主催した内輪の会議(以下「会議」)に参加していた。「紅い政権交代」の起点となる第18党大会を一年後に控えていた当時、その舞台となる北京では「胡錦濤政権の“科学的発展観”に取って代わる中国共産党の重要思想&指導原理をどう設定するか?」をめぐる議論が加速していた。
部分的にではあるが、私もそのプロセスにコミットさせていただいた。私以外にも、欧米出身の投資家、起業家、学者などが一連の会議に参加したようである(同席はしなかった)。
「中国の国家主席ほど難しいポジションは世界で類を見ない」
これまで多くの日本人、アジア人、欧米人の口から聞かれた言葉だ。そのとてつもない難しさを自ら認識しているからこそ、「国家の方向性」という極めて重大なイシューを決めていく過程においてさえ、中国共産党指導部は外国人からの意見に積極的に耳を傾ける戦略と習慣を堅持してきた。
国内外におけるすべてのパワーを国家建設という果てしない道のりに凝縮しようとする中国の為政者たち。「したたかさ」・「貪欲さ」・「学ぶ精神」という3つの姿勢に体現されるその統治スタイルを、この10年間、私は肌身で感じてきた。
“国家”、“人民”の問題解決には
“社会”というバッファーが不可欠
「加藤さんが私の立場だったら、何を政策のキーワードに設定しますか?」
「加藤さんが中国人だとしたら、指導者に何を一番求めますか?」
「加藤さんが国家主席だとしたら、何をどう国民経済に訴えますか?」
会議ではこうしたピンポイント、かつマクロ的な質問が主催者側から投げかけられた。私と同じくらいの年齢のエリート官僚がディスカッションの内容を淡々とメモにとり、整理していた。