タームプレミアムの上昇が
日本では為替減価に現れる可能性

 金融抑圧は、国債の実質価値が低下するために、公的債務が自動的に減少することだ。

 金融抑圧は、次の3つの条件が全てそろったときに実現する。

1.民間主体が大量の国債を保有している
2.低金利政策によって、その利率が低位に固定されている
3.インフレ率が高い

 金融抑圧が生じると、民間主体は目に見えない形での負担増を強いられるので、民間主体には望ましくない現象だ。だから、政府が金融抑圧政策を取ると公言することはない。しかし、現実の世界では、これがしばしば実現してきた。

 一方で、トラス・ショック時には、市場が財政リスクに対する上乗せ金利を要求、つまりタームプレミアム上昇で、実現しなかった。

 日本の場合はどうか。このところの長期金利上昇は、タームプレミアムの上昇を反映したものもあり、金融抑圧の防波堤になる可能性はなくはない。だがタームプレミアムの上昇が、長期金利上昇以外の要因によって吸収される可能性がある。

 それは円安が進むことだ。

 その理由を以下に説明しよう。

 例えば、日銀の金利正常化がゆっくりとしか進まず、金利が十分に上がらない一方で投資のリスクが上がると、投資家は次のように行動するだろう。

 まず海外投資家の場合には、円建て長期債への投資はリスクに見合う利回りが得られないため、外貨建て資産へ移動する。このため円売り・外貨買いが進み、円安になる。

 国内投資家の場合には、円建て資産の実質リターンが不安定で、インフレや将来増税の懸念がある。この結果、対外投資が増加し、やはり円安になる。

為替レートは最も自由な価格
金利上昇しにくく円建て資産の魅力低下

 長期金利は財政や中央銀行の政策の制約を強く受ける。

 それに対して為替市場は、日本の場合、資本規制は原則として存在しないし、為替レートも原則として介入はなく、市場で決定される建前だ。

 このため、抑え込まれたリスクは、最終的に「最も自由な価格」である為替に逃げるのだ。

 タームプレミアム上昇→円安という調整は、日本の制度構造の下では、極めて自然なものだ。したがって、為替レートは通貨のリスク差を反映する可能性が高い。

 円ドルレートの変動要因としてよく説明されるのは「日米金利差」だ。

 しかし、金利差が不変でも(あるいは縮小しても)、円資産に固有の不確実性(政策・財政・インフレの動向など)が高まれば、為替はさらに円安方向に動くのだ。

 これは、為替が金利では表現しきれない「国別リスクプレミアム」を反映していることを意味する。

 もし円安が完全に金利差だけで説明できるなら、円は反発して増価してよいはずだ。

 しかし現実には、長期金利が上がっても「それが一時的」と見られる限り、円は戻らない。これは市場が「日本では、金利は上げられても十分には上げられない」と見ていることを意味する。