愛憎混じる狂気の女性を演じた
倍賞千恵子と山口百恵
2つ目は『霧の旗』(1961年)など、「お嬢さん」が夜の仕事に就き、泥臭い努力を重ね、男たちへの復讐を果たす「転落お嬢さんもの」である。
「霧の旗」は女性誌の「婦人公論」で最初に連載された清張作品で、九州から上京した主人公の柳田桐子が、兄を冤罪(えんざい)で亡くしたことに憤り、兄を見殺しにした大物弁護士の大塚に、色仕掛けで復讐する話である。
地方出身の若い女性が、身一つで兄の仇を討つために、東京でホステスとなり、都会の権力者と闘うという構図は、現代でも新鮮なものである。転落するヒロインが引き立つ作品ということもあり、映画「霧の旗」は二度制作されており、兄への強い愛情と表裏一体の「狂気」を、倍賞千恵子と山口百恵が上手く体現している。
3つ目は『黒革の手帖』(1980年)など、結婚に関心の薄い女性が水商売をはじめ、性的な欲望ではなく、金銭的な欲望を原動力として、男社会と闘う「素人・玄人悪女もの」である。
『黒革の手帖』が従来の清張作品の女性像と比べても斬新なのは、結婚することなく、支店に窓口係として残った原口元子が、顧客の不正行為を「黒革の手帖」に記録して脅す点にある。彼女は臆することなく銀行から大金を奪い取り、銀座に1人でバーを開き、男性が優遇される職場から自立していく。
誰かのために悪事を働く女性から、自分のために悪事を働く女性への移り変わりが、清張作品の「主役級の女性たち」の大きな変化と言える。
これは清張が初期の代表作を記した1950年代から、『黒革の手帖』を刊行した1980年代に至る価値観の変化を反映している。1982(昭和57)年に発表され、映画版では桃井かおりと岩下志麻が主演を務めた「昇る足音」(「疑惑」に改題)に登場する鬼塚球磨子は、前科4犯で「玄人悪女」の完成型だろう。
若い女性と縁がなかったことが
後の名作たちの下地となる
酒井順子が指摘したように、清張作品の女性の登場人物たちを網羅的に分析すると、「お嬢さん探偵もの」から「転落お嬢さんもの」を経て「素人・玄人悪女もの」へと、女性像が変化してきたことが分かる。







