事例で読み解く!経営・ビジネスの深層Photo by DIAMOND

長らくアクティビストとの攻防を続けていた電子部品会社の東京コスモス電機。2025年6月、経営陣が総入れ替えとなり、アクティビストらが選任した新経営陣が新たに就任した。だが、アクティビストとの攻防の中で旧経営陣が打ち出した過去のTOB(株式公開買い付け)を巡り、旧経営陣の不適切な行為が新たに明らかとなった。本来中立であるべき第三者機関への一般株主の信頼を根底から覆しかねない、“許されざる行為”とは何か。連載『事例で読み解く!経営・ビジネスの深層』の本稿では、M&Aとガバナンスを巡る、東京コスモス電機の事件の問題点を解説する。(プルータス・コンサルティング代表取締役社長 野口真人)

崩れ去った
資本市場の「最後のとりで」

 M&Aにおいて、その取引が「正義」であるか否かを決めるのは誰か。経営者ではない。本来、それは株主であり、彼らの判断のよりどころは「数字」であるはずだ。

 企業価値算定(バリュエーション)。それは情報の非対称性にさらされる一般株主にとって、提示された買収価格が妥当か否かを判断するための唯一無二の羅針盤であり、資本市場の公正性を担保する「最後のとりで」である。

 しかし、2025年12月4日、車載向け電子部品などを手掛ける東京コスモス電機(以下、TOCOS)の特別調査委員会が公表した報告書は、この羅針盤が狂わされていたどころか、経営陣の保身のために磁極そのものが書き換えられていた実態を白日の下にさらした。

 TOCOSを巡る経緯について簡単に振り返ろう。長年株価が割安となっていた同社は25年6月、アクティビストらの株主提案が可決され、社長を含む経営陣が総入れ替えとなった。その結果、アクティビスト側の責任者である門田泰人氏が新たに社長に就任した。

 だが、新経営陣が経営を行う中で、旧経営陣によるガバナンス上の懸念が生じたとして、25年8月に特別調査委員会が突如として設置される。

 実は、アクティビストからの圧力を受ける中で、TOCOSは25年6月に米電子部品会社のボーンズによるTOB(株式公開買い付け)の公表とその賛同表明を行っている。1株当たりの買い付け額は8075円。結局、新経営陣に代わったことでTOBは白紙となったが、このTOB価格(企業価値)の算定を巡る経緯で疑義が生じたというのだ。

 では、TOCOSがTOB価格算定の中で行った“驚くべき行為”とは何か。

 本来、企業のTOB価格に対する算定と意見表明は、情報に乏しい一般株主への大きな判断材料であり、第三者機関の算定を通じた中立的な見解が求められる。ところが、TOCOS事件では、経営とファイナンシャル・アドバイザー(FA)が“癒着”した結果、中立であるべき第三者機関の算定に対する株主の信頼が根底から覆りかねないという、重大な構造的問題を暴いた。

 本稿では、TOCOSの特別調査委員会の報告書を通じて、経営陣やFAが、独立第三者による株価算定業務にいかに圧力を加えていったのかについて分析する。