さらに悪いことは、あなたの誠実さに対する信頼だけでなく、「ハロー効果(後光効果)」(ある人やものを評価するときに、一部の特徴的な印象に引きずられてそれを全体として評価してしまう心理現象。拙著『Think right』36章参照)により、高く評価されていた専門知識に対する信頼さえも失われる。

 つまり、あなたは「お金」と「名声」の両方を失うことになる。

 販売員の例で考えてみよう。

 彼らは基本的に、自身の売上額に応じて「手数料」を受け取る。これ自体は問題ない。

 しかし、四半期ごとに決算がおこなわれ、一定の売り上げを境に高いパーセンテージの手数料が適用されるようなケースでは、マイナスに作用する。いわゆる「チャネルスタッフィング(押し込み販売)」(企業が取引先に本来の需要以上に商品を送りつけ、販売として会計処理し、販売実績・売り上げを水増しすること。粉飾決算の手法のひとつ)につながってしまう。

 販売員は1年の売り上げをすべてひとつの四半期につめ込み、残りの期はどうでもよくなってしまうせいだ。

 学術の世界でも、かなり不可解な報酬システムが浸透している。

 学者として成功するかどうかの大部分は、その人がどれくらい多くの論文を書き、どこの雑誌で発表し、どれくらいその記事が引用されたかにかかっている。

 あなたはきわめて優秀な研究者かもしれないが、この報酬システムはもっとも愚かなYouTubeやTikTokのスターと似たような原則に従っている。貴重な時間の多くを研究ではなく、すさまじい量の論文発表に費やしているのだ。

 若い人は、研究の道に進む決断をする前に、学術の世界がどのように機能しているのかよく理解しておくこと。アルバート・アインシュタインやニールス・ボーアが的確な言葉で手紙を書き合い、自分たちの研究内容を記録していた時代は、残念ながら過ぎ去った。

「報酬」が目的の相手に
すべてを委ねるのはNG

 第2のポイント。愚かな報酬システムの犠牲にならないようにすること。

 たとえば、あなたの銀行の担当者には、できるかぎり多くの金融商品をできるかぎり高い管理手数料で売る、という動機がある。

 それに、あなたにできるかぎり頻繁に証券取引をさせようとする。なぜなら、取引ごとに「手数料」が発生するからだ。

 これは銀行とあなたの担当者にとってはいいことだが、あなたにとっては悪いこと。

 だから、決して銀行員を信用してはならない。彼らが悪い人間だからではない。単に、「報酬」という刺激が、あなたの利益に反しているからだ。

「報酬」という刺激の危険性について詳しく理解していれば、世の中はまったく異なって見えるだろう。そうなれば、化学者があらゆるものを分子の観点から見ているように、あなたは人類の営みを報酬の刺激という視点から観察するだろう。

「散髪したほうがいいかどうかは、床屋に聞いてはいけない」。この格言は常に心に留めておこう。

 あなたを冒険的なヘアスタイルから守ってくれるだけでなく、間違った報酬システムのワナからも守ってくれる。