価値を高めながらコストを押し下げる
バリュー・イノベーション
著者はレッド・オーシャンとブルー・オーシャンの戦略を次のように比較します。
【レッド・オーシャン戦略】
・ 既存の市場空間で競争する
・ 競合他社を打ち負かす
・ 既存の需要を引き寄せる
・ 価値とコストのあいだにトレードオフの関係が生まれる
・ 差別化、低コスト、どちらかの戦略を選んで、企業活動すべてをそれに合わせる
【ブルー・オーシャン戦略】
・ 競争のない市場空間を切り開く
・ 競争を無意味なものにする
・ 新しい需要を掘り起こす
・ 価値を高めながらコストを押し下げる
・ 差別化と低コストをともに追求し、その目的のためにすべての企業活動を推進する
(38ページ)
経済学の「収穫逓減の法則」とは、生産要素(労働力、資本)の追加1単位当たりの収益(限界収益という)は逓減していく、というものです。
例えば自動車のあるモデルが売れに売れて、どんどん投資を進めたとします。初期段階では収穫逓増です。たしかに売上高も増え、利益も増えていきますが、やがて追加投資1単位当たりの収益(限界収益)は減りはじめます。
コストの規模が大きくなり、単位あたりの収益率は必ず落ちていくからです。競合他社の新しい同クラスのモデルが市場に登場すれば、販売台数はさらに伸びなくなる。コストの規模は大きくなっていますから、あっという間に採算が取れなくなります。自動車メーカーはこの収穫逓減のカーブを予測しながら次の新しいモデルを開発していくわけです。
ブルー・オーシャン戦略は、反対に長期の「収穫逓増」を狙うものでしょう。競合他社が存在しない場合は価格競争もないので、収穫逓減にはならず、市場規模の成長とともに追加投資以上の収益が得られます。これを「収穫逓増」といいます。
独占市場では、コスト増に見合った価格引き上げが可能だからです。電力を考えてください。しかし、政府が認める電力のような独占市場ではなく、自由市場下のブルー・オーシャン戦略では、コストを下げて価値を上げるバリュー・イノベーションを根幹に置いています。そうでなければ、社会に独占の弊害(価格上昇)だけが残ってしまうからです。
これ(筆者注・独占市場)に対してブルー・オーシャン戦略は、従来の独占企業に共通するこの種のプライススキミングとは逆の効果を持つ。ブルー・オーシャン戦略の柱は、価格を高く設定して生産量を抑えることではなく、手ごろな価格設定によって買い手にとっての価値を高め、それをテコに総需要を新たな水準に引き上げることである。すると、導入期にできるかぎりコストを抑えるだけでなく、模倣者が現れてただ乗りするのを防ぐために、長期にわたってコストを押し下げていこうとの強いインセンティブが働く。こうして買い手も利益を得、社会も効率改善の恩恵に浴する。これがWin-Winのシナリオである。バリュー・ブレークスルーは、買い手、企業、そして社会全体を潤す。(284ページ)
そう簡単にブルー・オーシャンを泳げるとは思えませんが、シルク・ドゥ・ソレイユの事例は、壮大な研究開発ではなく、着眼点によってブルー・オーシャンが得られることを表しています。