
錦織、全然絶好調じゃなかった
ヘブンは、熊本に一緒にいきませんかと、正座し直して頭を深く下げる。
タエも勘右衛門も、なぜ自分たちまで一緒に誘われるのかわからない。
「でしょ。ここまで父上と母上と話したときとほとんど同じ流れ」とトキはプリプリ。「私は松江が大好きだけん。おじじさまもママさんも行きたくはございませんよね」と自分の味方につけようとする。
タエは冷静に「ただせっかくのご厚意ですから、無下(むげ)にはしたくはないと思いますよ」とヘブンに「少し考えますという意味です」と説明する。勘右衛門も意外と穏やかにタツ(朝加真由美)と話してみると言う。
司之介もフミも、タエも勘右衛門も、全員、即答はしないで考える派。トキは自分に同意してもらえずさぞ不満なことだろう。
帰宅すると、司之介が漬物をつけていた。
隠居して、暇を持て余し、漬物をはじめたのだ。現代の定年後の蕎麦打ちみたいなものか。
「素晴らしいパパさん。素晴らしい漬物」とヘブン。
司之介は漬物をつけながら、熊本に行ってもいいと言いだした。
明治維新以後、思いもかけずいろんなことが次々起こって「こげなことになるんじゃったら、とことんこげなことになったほうが面白い思っての」と開き直った50代、第2の人生のはじまりか。
フミも「ちょうどこの人が仕事を辞めて、それも何かのご縁かなと、私も思って。夫婦(めおと)の意見として、ついていこうかな、と。もちろんあなた(トキ)のそばにおりたいけんね」と言う。
「えーー ええけん 行かんでー」。トキだけ不満だ。
この熊本行き、もうひとり、不満に思う人物がいた。
錦織である。
彼は、熊本行きが着々と進行していることを知らず、自分が校長になり、ヘブンと共により松江の教育のレベルを高めていこうとか前向きに考えていた。自分のような惨めな思いは誰にもさせたくないと。
その矢先、知事(佐野史郎)に呼ばれ「君は先生の隣で一体何を見ちょう?」とヘブンが熊本に行くらしいと聞かされて、血相変えてヘブン宅に飛んでくる。
「まずは家族の意見を聞いてから錦織さんに話そうと」とヘブンは言い訳する。
「なぜ」
「松江、冬。寒い。ジゴク」
「ええ……」
声が震える錦織。頭に血が上って、英語に変換できなくなったようで、日本語でまくしたてはじめた。







