「はい。500万出しました。沢村先生は保護者からとても人気のある講師でした。教え方もうまいし、東大卒だし。うちのひとり息子も大のお気に入りで、どうしてもというので工面したんです。あの塾では授業以外の講師とのやり取りが禁止されていたし、致し方なかったんです。息子もとてもよくしていただいていたので、先生からの〈お誘い〉は断れなくて……」
「沢村は最初から、あなたの方が愛人関係に持ち込むつもりで自分を雇ったと話しています」
「そんな……」
「彼はバイセクシュアルですが、どうも本命は若い男の子のようです」
「まさか……」
「息子さんから何か聞いていませんか?」
私は奈落の底に突き落とされた気分でした。
面会室で浴びせられた
沢村からの罵詈雑言
しばらくして、私は拘置所で沢村と面会することができました。
受付の担当者の口調は事務的で、「面会室」と書かれた看板の矢印に沿って進んだ先は、殺風景で冷たい待合室でした。番号の書かれた札を持って、順番が来るまで待ちます。私はとても緊張していました。そして沢村と初めて会った日のことを思い出していました。
誰もいない面会室の壊れかけたパイプ椅子に腰を下ろすと、刑務官に連れられた沢村が入ってきました。
アクリル板越しの沢村は髭が生えて精気がなく、まるで別人のようでした。
「先生……」
沢村は鋭い目つきで私を睨みました。
「一体何しに来たんだよ」
あまりにぶっきらぼうな沢村の口調は、まるで人が変わってしまったかのようでした。
「一体どういった御用でしょうか奥様!社会科見学ですか!」
沢村はアクリル板に顔を寄せ、声を張り上げました。
「連絡がつかなくなって、心配してたんです……」
「あなたに関係ないでしょうが」
沢村は虫の居所が悪いのか、立ち会いの刑務官を見ながら、こう言ったのです。
「俺、この人に買われてたんだ。500万円で!」
刑務官は困ったという表情で、メモを取っていました。
「俺さ、あんたみたいな人種が一番嫌いなんだよ。自分じゃ何もできないくせに、金持ち風吹かせてさ」
これまでの人生で、ここまで罵倒されたことは初めてです。
「旦那、このこと知ってんの?」
「……」
「知らないんだ!バレたら離婚だろうな」
「どうなっても構わないわ……」
「あんたみたいな女、金持ちの夫なしで生きられないだろ?」
「酷い……。私が嫌いならどうして?」
「和樹が可愛いからだよ。和樹とヤリたかったからさ」







