息子を無事に東京に送り出した頃、私は沢村とさらに親密になりたいと考えていました。もう息子の家庭教師ではなく、私の愛人でいて欲しかったのです。

 ところが、「和樹君が無事に合格できてほっとしました。僕にとってもかけがえのない1年となりました。本当にお世話になりました」というメールが、彼からの最後のメッセージでした。

「沢村が勾留された」
警察からの電話で事態は急変

 眠れない日々が続いていた頃、突然、警察から電話がありました。

「関口麗子さんでいらっしゃいますか?」

「はい」

「沢村啓介はご存じですか?」

「え……」

 私はこの時、沢村が亡くなったのだと思いました。彼は家族と折り合いが悪く、親しい人がいないと聞いていたからです。

「はい、知っています」

「近いうちに、少しお時間をいただけないでしょうか?」

「沢村先生が何か?」

「事件を起こしまして、警察署におります」

「事件?」

「詳細は電話では……」

 私は電話を切った後、すぐに沢村が勾留されているという、自宅からそう遠くない警察署に向かいました。

「ご足労いただきありがとうございます。早速ですが、沢村とはどのようなご関係でしょうか?」

「沢村先生は息子の家庭教師でした」

「500万で契約したという話は本当ですか?」

 いきなり金額を告げられ、沢村がまさかそんなことまで話していることに衝撃を受けました。

「あの、沢村先生は何をしたのですか?」

「中学生へのわいせつです」

「わいせつ?」

 私は一瞬、頭を殴られたような気がしました。

「失礼を承知でお聞きしますが、沢村とは家庭教師と保護者という関係だけだったのでしょうか?」

「それは……。何か事件と関係あるのでしょうか?」

「実は、被害者は全員男の子なんです」

「先生は容疑を認めているんでしょうか?」

「いいえ、完全には。だからこうしてお話を伺いたいと思いまして……」

 私は冤罪に違いないと思いました。きっと、沢村先生に気があった保護者たちの陰謀だ。私はそう確信し、正直に私たちの関係を話しました。

「私と先生は密かに男女の関係を持っていました。だから、先生が男の子を好きっていうのは何かの間違いだと思うんです」

「被害者は塾の生徒たちでね。沢村は1年近く前に塾を退職しているのですが、その間、どうやって生活していたのか調べている時に、関口さんのお名前が出てきましてね」