中国の金融市場に不穏な空気が漂っている。銀行間取引に資金が流れにくくなり、短期金利が跳ね上がった。信用不安の広がりを恐れる中国人民銀行は、流動性の供給に全力を挙げている。波乱の背景に「影の銀行」の存在が指摘される。闇金融ではあるが庶民の暮らしに直結している。崩壊すれば地域に深刻な打撃を与え、共産党独裁体制の基盤を揺るがしかねない。「影の銀行」とは何か。その実態を報告する。

中国のユダヤ人

「影の銀行」とは、政府が認可した銀行ではなく、地域の有力者がカネを出し合ってつくった金融機関のことである。中央銀行である人民銀行の管理の外にありながら、暮らしに寄り添った「闇の銀行」だ。まず、そのひとつの例を紹介する。

「中国のユダヤ人」といわれる人たちがいる。ユダヤ教徒の中国人のことではない。浙河省・温州に根を張る商人たちだ。交通不便な荒れ地に住む人々で、古来から行商や出稼ぎで故郷を離れ、各地に培った人脈と勤勉を頼りに生計を立ててきた。そして市場経済の荒波が温州商人に蓄財の幸運をもたらした。

 中国各地で沸き立つ不動産ブームで、背後に動く温州商人の存在が話題になった。値上がりを見越し青田買いし、転売する。高度成長と不動産の値上がりが温州マネーを急膨張させた。利を追い求める資金をかき集め、巧みに運用する「闇の金融機関」が温州に乱立したのである。

 中国人民銀行は2005年、温州の金融事情に関する報告書をまとめた。「金融資産は約3000億元。国有銀行の手が届かない産業社会の毛細血管にヤミの資金が流れ、一定の役割を果たしている」と評価した。

 中国の金融システムは、国営銀行が担っている。4大銀行と呼ばれる官民一体の巨大組織は日本でいえば都銀で、中小企業や個人へのきめ細かなサービスとは程遠い。省や市が管轄する銀行もあるが、地方権力とつながりお役所的で、庶民に顔を向けた営業にはなりにくい。