どんな業界にもわかりにくい
専門用語は存在する
それから3カ月ほど経った夏の最中に、僕は野菜に加えて新しくリーチインという係も担当することになった。
リーチインの意味はまったく分からなかったけれども、上司も先輩もそう言っていたから、どうしてこんな麻雀のような言葉を使うのだろうと不思議に思いつつ、僕もリーチインと言っていた。
あれは「リーチイン」ではなく「冷陳」、つまり冷蔵庫の陳列だったのではと気づいたのはそれから10年以上も経ってからのことで、そこでようやく納得がいった。
もともとは「冷陳」だったのだろうけれども、伝言ゲームの結果、いつの間にかそれが現場でリーチインなる謎の用語にすり替わって、それがそのまま引き継がれていたのだろう。
仕事の現場ではよくそういうことがある。その業界でしか通じない言葉、その会社でしか使われない言葉なんてものはいくらでもあって、同じ職業でも言葉が通じないことがある。
たとえば、僕が勤めていた放送局と他の放送局では、特定の作業を指す言葉がかなり違っていたので、共同で番組を作るときにはよく誤解が生まれていた。
人気商品が入荷せず
仕方なく置いた商品が爆売れ
さて、リーチインである。僕が主に担当したのは飲み物で、冷蔵庫の中のペットボトルやら缶ジュースが減ってきたら裏の倉庫から持ってきて補充するのは、これまでと同じ作業だったのだけれども、倉庫の在庫がなくなったら本部に発注する役割が増えていて、なんとなく責任を与えられた気がして嬉しかった。
とはいえ、これだって誰がやっても同じだから、つまり仕事ではなく作業だった。
あるとき、清涼飲料水の棚が2段ほど空になってしまった。いろいろな飲料メーカーから毎週のように新しい商品が発売され、すぐに消えていった時代のことで、大学生の客が多いこの店ではそうした目新しい飲み物がよく売れたから、欠品してしまったのだ。







