変死事案では警察が検視を行なっていますが、警察の本来の目的は事件性の有無の判断であるため、死因究明のための専門部署や人員がありません。また、日本の警察は都道府県ごとに運営されており、検視のための体制や予算に地域差があります。

 さらに、死因によって担当省庁も異なり、感染症は厚生労働省、消費者事故は消費者庁、事件・自殺は警察などと縦割りで対応されています。

 2020年には「死因究明等推進基本法」(以下、基本法)が施行され厚生労働省に推進本部が設置されましたが、制度整備はまだ始まったばかりで関係省庁との連携や一元的な体制は確立されていません。

 諸外国、例えばアメリカではメディカル・エグザミナー制度が導入されている州が多く、医師資格を持つ法医学専門職が警察から独立して死因の調査を担っています。犯罪・非犯罪を問わず、検案・解剖・調査を一元的かつ科学的に実施できる体制です。

 日本の死因究明制度には、体制と人材の不足、地域格差、所管の不明確さや縦割り行政など、多くの課題が残されています。現状では、正確な死因を究明するための制度として十分に機能しているとは言い難いのです。

「その他の死体」と判断され
実際に犯罪死が見逃されることも

 こうした状況においては犯罪死を見逃すリスクも否定できません。実際に、警察が「その他の死体」と判断したのにもかかわらず犯罪死の見逃しが発覚した事案が、1998~2010年に判明しただけでも43件ありました。

 なかでも、時津風部屋の暴行死事件(編集部注:「稽古」と称した集団暴行により新弟子が死亡し、刑事事件に発展)は社会に大きな衝撃を与えました(犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方について」2011年)。

 また、死因究明は公衆衛生の向上などにも欠かせません。

 感染症や不慮の事故、孤独死・孤立死などの実態を把握し対策を講じるためには、まずは正確な死因統計が必要ですが、現状では早期の全国的な把握が困難です。

 ようやく2025年になって全国統計による孤立死の推計値が公表されたばかり。このように日本では死の実像が掴みづらくなっています。