加えて、日本では解剖への心理的抵抗感が強く、承諾解剖は多くは行なわれません。調査法解剖も、警察としては検案するために必要であるなどの事情がなければ、遺族が望まない場合には実施しにくいという現実があります。

日本の死因究明制度には
検案体制の脆弱さという課題も

 こうした背景もあり、2024年に全国の警察が取り扱った死体の解剖率は9.8%にとどまります。「犯罪死体」「変死体」は全て司法解剖される(解剖率100%)ので、「その他の死体」に限れば、その解剖率はさらに低いのです。

 地域差も大きく、下表のとおり、死体取扱数上位の都府県でも解剖率は、警視庁(東京都)では15.7%、神奈川県では22.1%に達する一方、埼玉県や千葉県では全国平均にも達しません。この実態は、日本の死因究明制度における制度的・文化的な課題を浮き彫りにしています。

警察取扱死体数上位5都市県における解剖実施状況(2024年)同書より転載 拡大画像表示

 第2に、検案体制の脆弱さがあります。事件性がなく解剖の必要がないと判断された「その他の死体」は、主に検案医が死因を推定します。

 しかし、監察医制度が施行されていない地域における検案医の多くは臨床医であり、法医学の専門知識や検案技術に限界があります。研修制度はあっても個人の努力に依存してきた側面が強く、後継者不足や高齢化も進んでいます。

 また、死亡時画像診断(Ai)も、CTなどの機器を設置している大学や病院は多いものの、実施数には地域差があります。

死因究明を包括的に担う行政機関が
日本には存在しない

 第3に、死因究明を包括的に担う行政機関が現在のところ日本には存在しないという構造的な問題があります。