粉唐辛子写真はイメージです Photo:PIXTA

「暑いのと寒いの、どっちが苦手?」「辛い食べ物は好き?嫌い?」――誰もが一度は交わしたことのある、たわいない会話だろう。けれども、なんとなくの“好き嫌い”で語られるこれらの感覚の裏には、命を左右する“危険のライン”が存在している。「暑さ」「寒さ」「辛さ」という、私たちの身近な刺激に潜むリスクを、「基準値」という視点から見つめ直してみよう。※本稿は、永井孝志・村上道夫・小野恭子・岸本充生『世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

夏の暑さと冬の寒さ
危険なのはどっち?

 2024年の夏は、全国153の気象台などのうち80地点で、平均気温が歴代1位の高温を記録した。

 いまや「異常気象」はすっかり夏の風物詩となってしまったが、みなさんは夏の暑さと冬の寒さ、どちらが危険と感じられているだろうか。

 多くの人は、熱中症などを心配して暑いほうの基準に注目するが、寒いほうの基準にはあまり注目されていないのではないだろうか。

 2018年に公表されたWHOのガイドラインは、室内温度が下がると高血圧や循環器疾患のリスクが高まるため、冬の室温を「18℃以上」にするよう勧告した。子どもと高齢者は、さらに室温を暖かくしたほうがよいようだ。

 これにともない、日本の建築物環境衛生管理基準も、室温の基準がそれまでの「17~28℃」から「18~28℃」に更新され、2022年度から施行された。

 厚生労働省の人口動態調査によると、2023年の冬(1月、2月、12月)の死者数は月平均14.9万人であり、それ以外(3月~11月)の月平均12.5万人よりも高い。寒いときは月2万人多く死ぬことになる。