ニューヨークに、成功ではなく「失敗」だけを集めた博物館がある――そう聞いて、何を感じますか。巨額の資金と期待を集めながら消えた製品たち。その裏で、失敗を織り込んで賭け続けるVCの論理がある。失敗は恥か、それとも前提か。私たちはどちらの世界に生きているのでしょうか?
楽天グループ代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏をはじめ、Google元会長やZoomの創設者も絶賛する世界的ベストセラー『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』をもとに解説します。

失敗するのは当たり前
ニューヨークは博物館で有名だ。
だが、この博物館については聞いたことがないかもしれない。
ブルックリンのかつての工業地区に埋もれたその充実したコレクションは、150を超える革新的な製品を誇らしげに展示している。
入り口のすぐ隣のガラスケースには、赤い「ムービーパス(MoviePass)」カードが置かれている。
ジョアンナという名の人物が所有するそのカードは、2024年10月まで有効で、持ち主は地元の映画館で1日1本の映画を月額わずか9.95ドルで観ることができる。
数部屋先には、他のデビットカードやクレジットカードすべてに取って代わることを意図して設計された、「コイン(Coin)」と呼ばれるオールインワン型の電子カードが展示されている。
近くには、携帯電話端末に強力なゲーム機能を搭載したノキア(Nokia)の「エンゲージ(N-Gage)」がある。
その隣には、ボタン一つで搾りたてのジュースがつくれる「ジューセロ(Juicero)」というジューサーが置かれている。
また、特殊な「促進剤」を配合した洗剤「パーシルパワー(Persil Power)」や、デュポン社の合成皮革「コルファム(Corfam)」も並んでいる。
これらの製品の共通点は何か。すべて失敗に終わったということだ。この博物館の名は「失敗博物館(Museum of Failure)」。これ以上ふさわしい名前はないだろう。
コインカードはかさばるしバグも多かった。ジューセロは同ブランドの野菜入りパックを自分の手で搾ればジュースをつくれることに顧客が気づいたとき、その魅力を失った。
パーシルパワーは洗浄力が強すぎて、泥汚れを落とすだけでなく服の生地も傷めた。ムービーパスは評判になりすぎて、利用者の映画鑑賞回数が会社の予想をはるかに上回った。
主要な展示品の多くは、有名なVCから資金提供を受けていた。コインはYコンビネーターやスパーク・キャピタル、レッドポイントが支援していた。
ムービーパスはトゥルー・ベンチャーズとAOLベンチャーズから出資を受けていた。
ジューセロはグーグル・ベンチャーズとクライナー・パーキンスが支援していた。博物館のガイドアプリが問いかけるように、「彼らはいったい何を考えていたのだろうか?」。
投資家たちは、失敗する可能性がありながら結果的に成功したアイデアのことを考えていたと推測できる。
おそらくフィーバー(Fever:博物館の情報を提供したイベント情報アプリ)やペイパル(PayPal:チケット代の支払いに利用した決済アプリ)、ウーバー(博物館までの移動に利用したタクシー配車アプリ)のことを考えたのだ。
これらの発明はすべてVCが支援する企業によって生み出され、大ヒットした。
だが同時に、失敗博物館行きとなる可能性もあった。
失敗はめずらしいことではない。
実際、VCはそれを予期している。
失敗はVCの仕事にはつきものであり、バグではない。
平たく言えば、どのアイデアも失敗しうるが、それがどれかVCには事前にわからない。
失敗がたびたび起こることを予期するのは、VC業界の特徴と言える。
ファブ・ドット・コムが破綻したにもかかわらず、そのプロジェクトに関与した大手VCのメンロー・ベンチャーズもa16zも、投資家からさらに多くの資金を集めた。
また、創業者のジェイソン・ゴールドバーグは、次のスタートアップの資金調達にも成功した。
そのスタートアップは失敗博物館行きになるかもしれないが、VCの殿堂入りを果たす可能性もあるからだ。
(本記事は『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』から一部を抜粋・編集しています)






