「社長…ゴメン」ベテラン社員が反対派に転じた「まさかの理由」【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第51回では減収と赤字上場について解説する。

上場のために絶対にあってはならない「減収」

 賛成派と反対派に分かれつつも、IPO(新規上場)に向けて進む主人公・花岡拳とアパレルメーカー・ハナオカの社員たち。しかしここにきて、生産部門のリーダー・片岩八重子(ヤエコ)がライバルからの引き抜きオファーを受け、仕事も上の空だ。ヤエコのミスもあり、結果としてハナオカの月の売り上げは減収に転じてしまう。

 上場をサポートする証券アドバイザー・牧信一郎は、花岡に「減収はダメです。上場目指すためには絶対にあってはなりません」と強調。売り上げや利益が少しでも下降すれば、上場が先送りにされると念を押すのだった。

 花岡は営業部門を取りまとめる大林隆二から、減収の原因がヤエコの業務にあると聞く。ヤエコは業務が遅延したことを謝罪しつつ、「IPO賛成派」から「反対派」に立場を転じると花岡に告げる。

 反対理由を問われて「だから会社のためよ」と答えるヤエコだが、心中には自身の引き抜きオファーや、IPO後の買収リスクへの懸念があった。

どうして? 利益が出ていない「赤字上場」が認められるワケ

漫画マネーの拳 6巻P141『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 減収に対して厳しく語った牧の言葉は、決して大げさな表現ではない。だがここで注意すべきなのは、「減収」と「赤字」はまったく別の問題だということだ。

 減収とは、事業の成長が止まる、もしくは後退して売り上げが下がっている状況だ。一方で赤字、つまり利益が出ていない状況というのは「成長の停滞」だけではなく、「成長中の先行投資」の結果という場合もある。後者はスタートアップにおける「Jカーブ」のように、将来を見据えた戦略的投資フェーズなのだ。

 漫画が連載されていた2000年代半ば、IPOは「一定の安定性を備えた企業が果たすもの」という認識が今よりも強かった。一方で東証マザーズ市場(現・グロース市場)は成長企業向けに開設されたが、黎明期には上場企業の混乱も起き、市場の信頼性が問われた時期もある。

 その後2010年代半ば頃から、新興市場の評価軸は変化していく。安定した「直近の利益」よりも、「市場や価値の創造」や「持続可能な成長」という観点が上場審査の主眼になっていく。その象徴が、いわゆる「赤字上場」だ。

 2010年代中盤〜後半に上場したクラウドワークス、メルカリ、ランサーズ、Sansan、freeeなどは、上場直前期の決算で利益が赤字だったが、急成長する新市場を開拓したことや、SaaS(Software as a Service)モデルの将来性が評価され、上場を果たした。もちろん、赤字が許容されたとて、減収までもが市場に認められていたわけではない。

 さらに直近では、東証が2030年以降にグロース市場の上場維持基準を「上場5年後に時価総額100億円」とする方針を示した。市場は再び「成長の質」を問う方向に舵を切っている。

 主幹事証券会社や監査法人も、成長性と収益性の両立をより厳しく見る傾向にある。牧の言葉は、今後より重視される視点とも言える。

 IPO反対派を取りまとめる大林は、ヤエコが反対派に転じたことを好機と捉え、牧の元に向かい、ハナオカから手を引くよう告げる。しかし牧は、「コトと次第によっちゃ、あんたがあの会社のトップに立つことだってある」と語るのだった。

漫画マネーの拳 6巻P142『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 6巻P143『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク