順調に自立の道を歩んでいた
男性が突如失踪した

 山本さん(仮名)が姿を消した。

 10年前に野宿を脱し、自立後はボランティアとして活躍されていた。ついこの間の炊き出しにも参加されていた。無口でまじめ。笑顔がすてきな方で抱樸の活動にはなくてはならない存在だった。

 その山本さんに何が起こったのか。彼は忽然と姿を消したのだ。

 連日、友人やスタッフが部屋を訪ねるが帰った形跡はない。部屋の中で倒れているかもしれない。抱樸では、不測の事態に備えて「部屋の中に入ってよい」との合意を書面でいただいている。

 出会った方のほとんどが一人暮らしをされている中、「出会いから看取りまで」のサポートする上で大事な約束だ。預かった鍵で室内を確認する。携帯電話が机の上にキチンと置かれていた。どうも事件や事故ではなさそうだ。携帯電話を置いて自ら部屋を出られたのだ。

 いったい何があったのか。

 その後も皆で手分けしてかつての野宿場所や立ち寄りそうな所を捜し回る。捜索願も出したが、見つからない。消息がつかめぬまま2週間が過ぎた。

「ダメかも」。最悪の事態が脳裏に浮かぶ。「いや、そんなことはない」と自らをいさめる。

 そしてある日の未明、事務所に連絡が入った。数百キロ離れた警察署からだった。

「山本さんという方が国道を歩いているところを保護しました。北九州に帰ろうとしていたようです。迎えに来れますか」。

 知らせに一同安堵する。

 スタッフが始発に乗り迎えに行く。無事合流。早朝、出張先の僕に連絡が入った。

「理事長、会えました。少し痩せておられますがお元気です」。

 良かった。「ところで原因は」と尋ねると意外な答えが返ってきた。

「ご本人は『俺、時々こうなるんよ』とおっしゃっています。それで『時々なるんだったら仕方ないね』と申し上げました。今から帰ります」。

叱責や注意よりも先に
まずは受け止める

 僕は山本さんとスタッフのやりとりを「すてきだ」と思った。いや感動した。