入江さんが中2生に放物線の図形的性質を教えるときに使う「3Dミラースコープ」入江さんが中2生に放物線の図形的性質を教えるときに使う「3Dミラースコープ」。真ん中に見えるテントウムシに触ることができない理由を「なんで」と生徒は考える

本当に伝えたいことは「なんで」から始まる

入江翔一入江翔一(いりえ・しょういち)
数学専門塾「数楽道場」代表。現役医師。1988年大阪生まれ。灘高等学校、東京大学医学部医学科卒。医師として勤務しながら、2021年東京大学理学部数学科卒。25年から札幌市に移住、26年3月に開校予定。

――これまで塾ではどのように教えてこられましたか。

入江 最初に、「何を一番伝えたいか」を明確にして、その目的に沿ったクイズを出します。例えば、中2で教わる放物線は、y=ax^2という方程式として扱われますが、一方で、図形として非常に美しい性質を持っています。そこを強調したいときは、こんなクイズから入ります。

 今日は実物を持ってきました。科学館などで一度は目にしたことのある方もいるかもしれませんが、これは3Dミラースコープといって、この部分にテントウムシが見えます。ですが、触ろうとしても触れることはできません。これを生徒一人ひとりに実際に体験してもらいます。そして、「今日はみんなにこの不思議な現象の仕組みを解明してもらいます!」と伝えて授業を始めます。生徒たちは不思議な現象の謎を解明したくて、必死に授業を聞いてくれます。その時点で、授業はほぼ9割方成功したと言えます。

――大阪出身だけあって、つかみが大事(笑)。

入江 そうですね。抽象的な話になればなるほど、身近な例を通して興味を持ってもらうことが大事だと思います。でないと、どうしてそんなことをしているのか分からなくなって息切れしてしまいます。例えば、高校で三角関数を習うとき、普通は黒板に単位円を描いて、その円周上の点のx座標・y座標をコサイン・サインと定義することから入ると思うのですが、生徒の立場からすれば、なんでそんなことをいきなり定義するの、となります。

 そこで円は描かずに、「太いソーセージにトルティーヤを巻いて、斜めにスパッと切って広げたら、トルティーヤの切り口はどういう形になるでしょう?」というクイズから入ります。形が崩れずにナイフで切りやすいのは魚肉ソーセージです(笑)。

ナイフで切る様子「感動」する授業は、まず生徒への問い掛けかけから始まる

――わざわざ北海道から持参された(笑)。

入江 紙とはさみでやるとつぶれてしまい、うまくいきません。生徒に答えを聞いてみると、「ぎざぎざ」「うねうね」など、いくつかの予想が出てきます。普段料理をしている子は正解したりしますが、予想が出尽くしたところで実演して見せます。

 隙間を作らずに斜め45度くらいで切ると、このように「なみなみ」の曲線ができます。「今日の授業を聞けば、この波の正体が分かるよ」と伝えて授業を始めます。予想が外れた生徒はその意外性に驚き、予想が当たった生徒も、その正体を知りたくて真剣に授業を聞いてくれます。

 こんなふうに、授業では「まず身近な例で感動してもらう」ことを心掛けています。生徒の心をつかむことさえできれば、その先にある、より感動的な体験まで息切れせずにたどり着くことができます。

「なみなみ」の切断面「なみなみ」の切断面が出来上がる

望月 いまのような問題は中学入試でも出題されています。答えを知っているわけはないので、想像させることになります。どのような形になるかで選択肢が描いてあるのが普通です。私の教室でもトイレットペーパーの芯の部分を使って、全く同じようなことやっています。

 同じ授業の中で、トイレットペーパーの芯で円筒の展開図を作ります。ラップの芯も全部こうしたカーブになっている。なんでこのカーブなのか、と次々に話は脱線していきます。私が保管しているトイレットペーパーの芯の山を見て「わーっ、汚い!」と女子生徒が叫ぶので、「どこが汚い?触ってみろ!」と私が突き出すと、「きゃーっ」と叫んで他の生徒は爆笑します。

斜めにカットされたトイレットペーパーの芯を開く様子トイレットペーパーの芯は斜めにカットされていて、開くと平行四辺形になる

 また、「キミたちのために買ってきたんだぞ」と言いながら、上部が斜めに切られた円筒のアクリルの伝票立てを紙に強く押し付けて回転させて開いたらこうなるというのを実演して見せます。「これは高校数学で学ぶサインカーブなのだ」と言うと、時々ませた小学生が「へーっ」と声を発しますが、普通の生徒たちは「何それ」とキョトンとしています。