小3の授業で折り紙を折って、ナイフでカットしてから開くとどのようになるか。まず作図をさせてから実際にやってみる。左の写真は,意図したものではない、予定外の副産物(左)。課題である小正方形4個の切り抜きを完成させた生徒が、待ち時間を使って創作した課題外の作品(右)
最も大切な学びは「間違える」ことで得られる
望月俊昭(もちづき・としあき)望月算数数学教室主宰。1948年北海道生まれ。二十数年にわたり大手塾で中高受験生のための算数・数学を指導したのち、難関中学受験のための少人数制の算数教室を主宰、入学後の中学数学の指導も行っている。著書に、『中学受験 超難関校合格! 頭のいい子にも勝てる 算数まとめノート』(ダイヤモンド社)、『算数プラスワン問題集』『高校入試ハンドブック』シリーズ(いずれも東京出版)など。1987年から月刊誌『高校への数学』(東京出版)に、88年からは『中学への算数』(同)で連載を執筆している。
――小道具を使って、一番教えたいことのきっかけを効果的に見せることが大切になると。
望月 間違える時間が、生徒にとって最も貴重な時間です。間違えた段階で「なぜ間違えたか」について考えさせます。これを繰り返していくと、間違えたことを恥ずかしいとかまずいとか思わずに、なぜなんだろうと考えるようになります。
小3後半の授業ですが、生徒たちは、方眼のノートに切り抜きたい図を作図し、これを「完成図」とします。次に、その図のように切り抜くためにはどのように折っていくか、そして最後にどのような直線で切ればよいのか、という一連の流れを作図します。その過程で副産物がいっぱい出てきます。
折り方または切る線が正しくないとゆがんだ四角形ができます。そこで「これのどこが正方形なのか」と指摘する。「仮面をつくって遊んでいる場合ではない」と辛口のコメントをした後で、「とても面白い作品だから、自分用に取っておいて、同じものをつくって先生にちょうだい」と持ち上げて、生徒の名前を書いて保管しておきます。過去の生徒の間違った実例の束を見せると、楽しくて仕方がない、となります。
――生徒が自分の手を使って作業をしたことで印象が残りますね。
望月 授業の中で生徒たちが取り組んでいるメインの作業は,折り紙そのもの、つまり折る操作ではありません。たとえば、正三角形や正六角形を方眼のノートに描く練習をさせた後に正方形の折り紙から正三角形や正六角形を切り抜く。これは「一刀切り」というのですが、そのためにはどのように折り、どのような直線で切ればよいのかというのを「一刀切りの設計図」と呼ばせて、作図させています。
――設計図という言葉は、生徒たちにとって魅力的ですね。
望月 設計図が描けたら、実際に生徒自身が折り、先生つまり私がカッターで切る、という流れで進めます。折るのが2~3回くらいならハサミでも切れますが、折る回数が増えていくとハサミで切るのは無理になるので、エッジのついた定規をあててカッターで切ります。生徒たちがその設計図を描く段階で、いろいろな間違いが生じるわけです。
一言で表現すると〈遊ぶ折り紙から学ぶ折り紙へ〉という授業で、図形の本格的な学習が始まる前に線対称の作図をとことん学ぶ、というのが目的です。生徒の頭というか心に、きれいな図とかではなく「正しい図」と「正しくない図」という概念ができていってほしいわけです。「正しくない図」「間違った図」というのはとても大事な概念です。
入江 「間違えてこその学び」を体現したような授業ですね。そんなふうに間違いを楽しみながら学ぶことができれば、間違えることが恥ずかしいとは思わなくなりそうです。
望月 もう一つ大事にしているのは、いろいろな解き方がある、ということです。答えは一つだとしても、考え方や解き方は一つではないことを植え付けていきたい。世の多くの参考書・問題集には解の他に「別解」と書いてあるのが普通です。「別解」という言葉は、本館と別館みたいで好きではありません。最速の解法は必ずしも最良・最適ではないし、他の問題に通用しないことが山ほどあるからです。
そこで、相当時間を掛けて、子どもたちにたくさん解き方を考えさせます。解1、解2、解3とたくさん考えついた方がえらいと。
入江 試行錯誤が楽しくなる教え方ですね。
望月 「小3のときのあの一刀切りが一番楽しかった。またやりたい」と、東大や国立大医学部に合格して教室を訪ねて来る元教え子の多くが言ってくれます。自分で完成させたことも、作図を間違えて失敗したことも、楽しい思い出。授業としては時間がかかるわけですが。
入江 授業の進行上、本当はもっと悩んでほしい場面でも、説明せざるを得ないことがあります。その点での折り合いをどのようにつけていますか。
望月 週1回だけなので、教室ではすべてはできません。普通の塾で教わることはそちらでやってもらい、特に低学年では、本格的な受験準備の前の時期にこそ取り組むべき大切なこと、例えば小3の学年を通しての計算なしの作図や、小4一学期の「三角形の合同の証明(の記述)」などのテーマを選び出してやっています。
――望月さんの算数教室には看板もない。お一人で教えている。
望月 とにかく間違える経験が大切です。そのため、小学生はクラスの人数が1桁を超えないようにしています。また、難関中学に進学した中学生も指導しているので、各学年少人数の1クラスしか持てません。
――それで生徒の募集も含めて非公開なんですね。次回は「できる子」が陥りやすい「反復」のワナについて考えてみましょう。何が大切なのか、それを身に付けるためにはどうしたらいいのかも含めてお話を伺います。







