今、ノンアル飲料が
人気を集めている理由
都市勤労者たちのこうした酒離れ、泥酔離れは、かれらにとってのアルコールの生産的な価値が、少しずつ後退をはじめていることの徴候として解される。今日の都市勤労者たちにとって、アルコールは、反生産的な液体でも、生産的な液体でもない、たんなる液体へと、少しずつ変貌しつつある。
『「酔っぱらい」たちの日本近代 酒とアルコールの社会史』(右田裕規、KADOKAWA)
たとえば「ノンアルコール飲料」と呼ばれる疑似的な「酒」の流行は、その重要な徴候の1つである。サントリー『ノンアルコール飲料レポート』(2024年度)が出した推計によると、2010年度に12万キロリットルだったノンアルコール飲料の市場規模は、2023年度には34万キロリットルにまで伸びている。これは、同じ2023年度の清酒の国内消費量(39万キロリットル)に、匹敵する数字である(『酒のしおり』2025年度)。
アルコール抜きのアルコール飲料(風味の飲みもの)が高い人気を得るという、この興味深い現象は、酒を他の飲料から区別させる、固有の価値や意義が次第にうすれはじめていることの、直接的な証左にほかならない。
誤解のないよう強調するならば、21世紀の都市社会でも、20世紀的な飲み方は、随所に継承されている。今日の都市勤労者たちにとっても酒を飲むことは、「「愉悦」のなかの「仕事」」であり続けている。それは勤労者たちに束の間の愉悦や救いを与えてくれる、代表的なレジャー活動であるのと同時に、すぐれて労働的な営みであり続けている。
ただその一方、都市勤労者にとってアルコールが、以前ほどの労働的な価値や意味をもたなくなりつつあるのも、また確かなのである。近世社会が酒に付与した反生産的な価値が、20世紀の勤労者にとって疎遠なものとなったように、20世紀の都市勤労者たちがアルコールに見いだした生産的な価値もまた、21世紀の勤労者たちにとっては、少しずつ疎遠なものとなりつつある。







