企業利益の分配率は
30年間右肩下がり

 さて図1-6の結果をまとめて見てみましょう。まずレベルですが、実質雇用者報酬は2019年にピークを打ち、コロナ禍より回復していないことが分かります。実質家計受取財産所得を加えてもピークは変わりません。実質雇用者報酬に実質国民保有財産所得を加えた数値では実にピークは1996年になっています。

 分配率で見れば(1)に比べて(2)、(2)に比べて(3)の方が低下傾向が強いことが分かります。つまり分配率の定義を拡大すると、昔の方が企業が家計へ戻す比率は高かったのです。

 家計分配率では1994年で最大80%近くにもなるほどでした。それが現在では60%程度まで落ち込んでいるのです。つまり企業の生産の果実が家計に回っていないことが、いくら頑張っても報われない日本の経済循環構造の背後にあります。理論的な一国モデルでは、家計分配率は100%ですから、的はずれな政策提言が続くのは無理ありません。

書影『いまどうするか日本経済』(脇田 成、筑摩書房)『いまどうするか日本経済』(脇田 成、筑摩書房)

 結局、日本の家計は株式保有にまだ積極的でないわけですから、即効性のある解決策は企業から家計に資金を賃金で移すこと、つまり大幅な賃上げしかありません。

 幸いなことに伝統的な中央集権的労使交渉メカニズムである春闘は、経済全体の賃金決定にかなりの影響力を持っています。コロナ禍までの良好な雇用情勢のもとでは、大企業から中小企業に賃上げは波及していき、好循環で労働市場がよりタイトになれば、法や規制では影響の及びにくい格差や労働問題もよい方向に動くことが期待されました。

 賃上げで消費が増大すれば、地方のサービス業など非製造業にも直接的に恩恵が及びます。さらに好況になれば、財政支出増大の必要性が減り、政府の赤字までが減少する効果を持つと期待されたのです。

 筆者は企業に賃上げ余力がある現状で、賃上げ継続は正当と考えています。その理由は賃金には過去の貢献の後払いであったり、協調的な労使関係のもとで労働者は企業利潤の分配を受ける権利があったりする側面があるからです。生産性上昇分に賃金は追いついておらず、本来の貢献分をもらっていなかったからです。