学歴やIQが主に示すのは「認知能力」や「情報処理の速さ・正確さ」です。

 職場で成果を出すには、それに加えて、周囲と協働し、関係性の摩擦を最小化しながら仕事を前に進める力が欠かせません。

 学歴やIQが高くても、組織やチームの成果を下げてしまうモンスター人材が生まれるのは、この力が弱いことが少なくありません。

 理解が速くても、ちょっとしたことで感情が高ぶって対立を生んだり、相手の気持ちを汲まずにコミュニケーションが荒くなったり、信頼関係を積み上げられなかったりすると、本人の成果だけでなく、周囲の集中力や士気まで削ってしまいます。

 採用で避けたいのは、単に「仕事ができない人」というより、チームの空気を悪化させ、疲労や対立を増やしてしまう人です。

 そこで注目したいのが、感情知能(Emotional Intelligence)です。表記としては本来「EI」が一般的です。日本では「EQ」と呼ばれることも多いのですが、本稿では「感情知能(EI)」として扱います。

 感情知能とは、端的にいえば「感情をコントロールする力」です。

 自分の感情に気づき、振り回されすぎずに調整できること。相手の感情や立場を読み取り、必要な配慮をもって関われること。そして、信頼を積み上げ、協力関係を保ちながら仕事を進められること。こうした力は、業務理解の速さや知識量と同じくらい、場合によってはそれ以上に、職場の成果を左右します。

 感情知能が重要だという話は、直感や経験則だけに基づくものではありません。学術研究でも証明されています。

 たとえば、ケンタッキー大学のキッドウェルらの研究から、感情知能が高い不動産エージェントほど年間売り上げが高い傾向にあることがわかりました(※1)。

 また、スペインのデウスト大学のウルキホらの研究から、感情知能の高さは職務満足の高さと結びつくことがわかりました(※2)。なお給与についても正の関連は見られますが、属性や性格特性などを考慮すると影響がはっきりしないため、「感情知能が高いほど高給になる」とまでは言い切れません。

 さらに、ロングウッド大学のオーボイルらのメタ分析から、感情知能と仕事のパフォーマンスには正の関連があることがわかりました(※3)。

 こうした研究を踏まえると、採用で大切なのは「EIを測れば当たる」という話ではありません。むしろ、学歴やIQが得意とする領域(認知能力・学習速度)とは別に、職場で効く別軸の能力があり、その軸を拾える設計にすることが重要だ、という話になります。

面接でEQを測る
質問のつくり方

 では、採用実務にどう落とし込めばよいのでしょうか。

 理想を言えば、適性検査と同様に、感情知能の測定も補助線として使えると選考の解像度は上がります。ただし、EIの測定には能力型(例:MSCEITのような客観テスト)もあれば、自己報告型の尺度もあり、それぞれ長所と限界があります。

 導入を検討する場合は、「どのタイプのEIを、どの職種で、何の目的で使うのか」を先に決め、単独で合否を決めるのではなく、あくまで複数の材料の一つとして位置づけるのが現実的です。

 一方で、テストの導入が難しい企業でも、面接の設計を変えるだけで感情知能はかなり見えやすくなります。

 ポイントは「印象」ではなく「行動事実」を引き出すことです。たとえば「知らない人ともすぐに打ち解けるのは得意ですか」と尋ねるだけだと、自己評価のうまさが混ざります。そうではなく、「初対面の相手と関係構築が必要だった場面を一つ挙げてください。あなたは何をし、結果はどうなりましたか」と具体例を求めるほうが、再現性のある力が見えます。