この答えにたどり着くまでに、私は70年を費やした。しかし、この記事を読むあなたなら、もっと早く「働くことの意味」を見つけることができるかもしれない。

「世の中の役に立つことをやりなさい」
井深大さんの教え

 私は1958年、大学を卒業して伊藤忠商事に就職した。ところが海外勤務への憧れを諦めきれず、1年で転職してしまう。転職先は、まだほとんど無名だったソニー。

 ソニーでの32年間は、日本経済の高度成長期、バブル期、そしてバブル崩壊後を経験し、まさに激動の時代だった。

 スイスやアメリカに駐在し、帰国後は厚木工場で事業責任者となり、最終的には本社で常務取締役まで務めた。ソニーを去ったあと、66歳で人材派遣会社の「新入社員」となり、68歳で人材紹介会社を起業した。以来21年間で約5000人を超える方々の転職をサポートしてきた。

 私がいまなお働く理由の一つに、ソニー創業者の井深大さんから聞いた言葉の影響がある。

 私はソニーの取締役を退いたあと、子会社であるソニーPCLの社長となった。当時、同社の会長は井深さんで、私は毎月、井深さんのご自宅を訪れ、会社の状況を報告していた。

 ある日のこと、ベッドに横たわる井深さんが静かな声で言った。

「世の中の役に立つことをやりなさい。頼みますよ」

 何の話題だったかは記憶にない。ただ、井深さんが噛み締めるように話した声は耳に残っている。

 当時の私は60代。井深さんは90歳に近かった。「そうですね」と答えたものの、正直なところ、心の奥で「当たり前のことを言っているな」と思う程度にしか受け取れなかった。

 四半世紀が過ぎて自分が90歳になったいま、あの言葉の重みを感じている。井深さんは、働くことについて究極の意義を教えてくれたのだと思う。

「自分のために働くな。
会社のために働くな」

 ソニーがまだ町工場の雰囲気だった頃、井深さんの通訳係によく駆り出された。英語に堪能な先輩もいたので、なぜ私に声がかかったのか、いまでも不思議だ。

 思うに井深さんの話題は技術系の専門用語が多く、しかも興に乗ると通訳の都合に関係なくしゃべりまくる。そのうえ井深さん自身も英語はそこそこしゃべれたから、途中で「その訳は間違っている」などとダメ出ししてくることもあった。それで面倒くさいからと先輩たちに敬遠され、新米の私にお鉢がまわってきたのだろう。