「勉強なんかするな」驚きの帝王学

 アパホテルの現場では、支配人に価格を決める権利が与えられている。自分で考えて動く。突然のキャンセルやオーバーブッキングなどは周りのホテルと協力して状況を変える。このような環境こそが、機械に負けない強い人間を育てる。

  芙美子氏の教育方針も、同じ方向を向いている。息子たちに対して「勉強なんかするな」と伝えてきた驚きの帝王学がある。

《「勉強なんかするな」と言って2人の息子を育てました。勉強はできて当然、習ったことができないなんておかしい。勉強はただ記憶力の強い子をつくるだけです。今はインターネットで調べればすべて解決するじゃないですか。そんなことで周りとしのぎを削って、偏差値の高い大学に行きたいなんて。そういう心がけじゃ大成しません》

《お金に関しても厳しく教育してきました。1円たりとも無駄遣いや贅沢をさせたことはありません。学生時代の仕送りはぎりぎりの生活費で5万円くらい。たくさんアルバイトして大変だったと思います。19円の“鼓笛隊ラーメン“(当時、安売りの定番だった袋麺)を安売りのときに買ってそれで我慢したとか》

 記憶すること。正解を出すこと。それらはかつて、頭の良さの証だった。しかし、今は誰もがスマートフォンで正解を見つけられる。芙美子氏が言うように、知識を詰め込むことよりも、目の前の問題に対してどう動くかという「決断力」や「洞察力」が求められているのだ。

 デミング氏の研究結果が示すように、これからの社会で最も必要とされるのは、他者と繋がり、協力し、価値を生み出す力だ。アパホテルと元谷家が歩んできた道は、まさにその力を育むための巨大な実験場だったと言えるかもしれない。

 目の前の1人を笑顔にするために、全身で挨拶をする。仲間の強みを生かすために、自分の役割を柔軟に変える。困難な状況でも、自分の頭で考えて最善の答えを出す。

 私たちは今、テクノロジーという大きな波の中にいる。波に飲み込まれないためには、もっと人間らしくあることが必要だ。

 元谷家の人々が大切にしてきた教育や信念は、時代が変わっても色あせない。むしろ、時代が進化すればするほど、その輝きは増していく。

 アパホテルの看板を見かけるとき、私たちは単なるホテルチェーンを見ているのではない。そこにあるのは、人間が人間として成長し、他者のために力を尽くすという、古くて新しい物語なのだ。働く喜び、育てる喜び、そして共に生きる喜び。それらを大切にする姿勢は、これからも多くの人々を勇気づけていくだろう。 

「勉強なんかするな!」「子どもは19円の袋麺」日本一アパグループ・元谷家の“AIに勝つ”最強帝王学