昼過ぎに病院に到着すると、保雄は入院中に着ていたお仕着せの病衣を脱ぎ、上半身はお気に入りのシャツとセーターに着替え、下はオムツのせいでファスナーが開いたままのコーデュロイ素材のズボンを穿いて私の到着を待っていた。それでは寒そうだ、と看護師さんに頼んで、持参したウエストがゴムになっているユニクロの厚手のズボンに穿き替えさせてもらう。
全身を駆け巡る激痛よりも
退院の嬉しさが勝っていた
すでに脚にも身体にも力が入らないのに車椅子での帰宅を強く希望したからには、相当な覚悟があったはずだ。民間救急車に乗り込む前、保雄は久しぶりの外の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる。幸いにも晴天だ。
ただ、全身がガリガリに痩せてしまい、クッションを敷きつめた座席とはいえ、座っているだけでもお尻の仙骨が当たって、刺さっているみたいに痛いと訴えた。
車が走り始めるとちょっとした道路の窪みのバウンドでも激痛が襲うらしく、顔をゆがめ、実際に悲鳴も思わず出てしまう。そのたびに路肩に停車してもらって、クッションや私のダウンコート、保雄の膝かけなどをお尻や背中と座席の間に押し込み、体勢を何度も整えた。ガタガタ揺れそうなところは最徐行してもらい、全体的に速度を落としてもらった。
高速道路はできるだけ避けて、遠回りでもなるべく景色がいい場所を選んで走ってもらった。早咲きの梅の花が咲いている場所では少し車を止めて窓を開けるといい香りがした。お濠の水鳥が泳ぐ姿なども見ることができた。
「入院したのは10月だったからなあ、季節感がぜんぜんわからないよ」とお尻を痛がりながらも外を眺めて、明るく嬉しげな会話が続く。道中、お尻の痛み以外、苦痛を口に出すことはなかった。実際、見た目も苦しそうには一切見えなかった。
幸いなことに渋滞はなく、1時間あまりで無事に自宅マンションの入り口に到着した。そこにはすでに在宅看護・介護を担当してくれるスタッフが全員並んでいて、出迎えてくれた。







