駒込病院で1日だけ、介護の仕方の研修をしてくれたが、実際にひとりでできるのか、とにかく不安でたまらなかったのだ。
訪看さんのひとりが「まず45リットルのビニールのゴミ袋を用意してください」と私に指示した。寝たきりの人を介護する時に「最初に困ること」の解決方法を伝授するというのだ。
何をするのかわからないまま袋を持っていくと、彼女は力なく横たわっている保雄を仰向けにして膝を立てさせ、広げたビニール袋を持った手を彼の身体の下へ突っ込み、ビニールを背中から腰の下にシーツのように敷いた。
次にベッドの頭側にまわり、「保雄さん、両手で頭の上のほうにある手すりを掴めますか?」と訊いた。
何が起こるのかわからずおろおろする保雄の両手を取ってヘッドボードの手すりを握らせると、上から覆いかぶさるようにして、両脇に下から手を突っ込み、「せーの」と言って脇を掴んで上に引っ張り上げたのだ。
『見えない死神 原発不明がん、百六十日の記録』(東えりか、集英社)
その際、保雄にも足はできるだけ突っ張り、両手で懸垂をする要領で自分の身体をずり上げるようにしてほしい、と言う。
介護ベッドは上半身を斜めに起こした状態で使うので、どうしても身体が沈みがちになる。特に保雄は下半身に力が入りにくいので、上半身が下がると腹部を圧迫して苦しくなるし、体勢がくずれても自分では立て直せない。それを直すのに、女性ひとりの腕力で力まかせに引き上げるのは到底できることではない。
ビニール袋を敷いて滑りやすくすれば、力はそんなにいらないことを実感した。何度か試してみたが、本人も苦しくないと言うし、なにより簡単だ。
納得し、感心した。訪問看護師にはこういう「看護の知恵」がたくさんあるに違いない。







