北大路欣也・俳優北大路欣也氏 Photo by T.H.

日常にある他人の人生の
ふとした瞬間を見逃さない

――それにしても、北大路さんのお芝居を見ていると、笑顔一つとっても何種類あるのかと驚かされます。どうやってその「引き出し」を増やしているのですか?

北大路 特別なことはしていません。一人で鏡に向かって練習していたら変でしょう(笑)。笑顔というのは、相手がいて初めて生まれるものです。

 普段の生活で怒るときもあれば、笑うときも、泣くときもあるでしょう。その普段の生活の感情を大事にしたいと思っています。

 街中や電車の中でも、「あ、こんな笑い方をする人がいるのか」「あの人が怒った時の顔、すごく怖かったな」という瞬間に出会う。それを「記憶の引き出し」にしまっておきます。

 そうして貯めておくと、いざ役を演じる時に「あ、この場面の感情は、あの時に見たあの人の笑顔に近いな」と、自然と表情が出てくる。

 日常にある他人の人生のふとした瞬間を見逃さない。お芝居も好きでよく観に行きますが、私は「演じる」ことよりも、「見る」「聞く」ことのほうが好きなんです。それがないと演じることはできません。

 ここまで続けてこられたのは、決して私一人の力ではありません。あらゆるスタッフの方に支えられ、愛情をいただいてきたからです。

 12歳でデビューしたときから今に至るまで、素晴らしい方々に出会ってきました。もちろん厳しいことも悲しいこともありました。でも、「恵まれているな」と心から思います。

 父の前で「やらせてください」と言ったあの日から70年。これからも一つひとつの出会いを大切に、相手を「見て」「聞いて」、自分の道を歩んでいきたいですね。

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「人をよく見なさい、よく聞きなさい」。

 北大路欣也さんが語った言葉は、あまりにもシンプルだ。しかし、情報過多の現代において、私たちは本当に目の前の相手を「見て」いるだろうか。

 70年もの間、第一線に立ち続ける理由は、この「基本」を誰よりも深く、誠実に実践し続けてきたからに他ならない。そのまなざしの温かさは、彼の生き様そのものを物語っていた。

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>>【第2回】「「間違っている」とは言わない…北大路欣也が教える“若手との接し方”が深すぎる」は3月2日(月)に配信予定です