岩波書店の雑誌『世界』2007年3月号に寄稿した「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」では、「そもそも、労働時間はなぜ規制されるのか。労働者の生命と健康を確保するためではないのか。働きすぎで身体や精神の健康を害し、場合によっては過労死や過労自殺といった事態を引き起こすことのないように、物理的な労働時間を規制しているのではないのか」と問いかけ、EUで導入されていた休息期間規制(勤務間インターバル。退社時刻から翌日の出社時刻の間に一定時間(EUでは11時間)を確保する規制)の導入を唱道していたのです。

労働者の健康確保よりも
残業代の扱いに関心が集中

 しかしこの当時は、世間一般の関心は労働者の健康確保よりも残業代という銭金に集中しており、2008年の労働基準法改正は、ホワイトカラーエグゼンプションが「残業代ゼロ法案」という批判の前に撤回を余儀なくされた後の残りとして、時間外労働の割増賃金の割増率を、1カ月当たり60時間を超えたら25%から50%に引き上げるという矮小な改正にとどまりました。

 いや、企業の人事担当者からすれば、残業代の計算がやたらに複雑化するという意味では決して矮小な改正ではなかったでしょう。

 しかし、労働者の健康確保のために長時間労働を抑制するという観点からすれば、「まるで長時間残業を奨励しているかのような」改正であったのです。

 2013年に第2次安倍内閣の下で再び労働時間規制の問題が議論され始めたとき、私は規制改革会議雇用ワーキンググループや産業競争力会議雇用・人材分科会に呼ばれて意見を述べ、その中で「日本の労働時間規制はきわめて緩」く、「日本で厳しいのは残業代規制」であって、「残業代がつこうがつくまいが、健康確保のための労働時間のセーフティネットは必要。当面、過労死認定基準の月100時間か。1日ごとの休息時間規制も検討すべき」と持論を展開しました。

 しかしこの段階では、一般的な時間外・休日労働の上限規制は見送られ、高度プロフェッショナル制度の立法化だけが進められたことは前述のとおりです。