世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。
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「地元で本当に美味しい野菜を!」共鳴して移住した販売人
地方にカリスマ的な生産者がいると、その人を拠点に、どんどん食の達人たちが集まり始めます。前回は雲仙で「在来種」の種を育てる農家・岩﨑さんをご紹介しました。彼の志に魅せられ、次々と移住する人が増えています。
たとえば、「オーガニック直売所タネト」の奥津爾(ちかし)さん。彼は岩﨑さんと出会ったことをきっかけに「野菜の個性をすべて均一にするのは、普通に考えて不自然だ」ということにあらためて気づかされたと言います。そして、流通の問題点を解決するために、雲仙へ移住してきたのです。
岩﨑さんの野菜は手間暇がかかるため、F1の野菜に比べると値が張ります。これまで、地元では売れないだろうと思われ、わざわざ東京や大阪へ運ばれていました。けれど、野菜もやはり、新鮮なほうが美味しいわけです。輸送されている間に品質が低下するのはもったいないし、本当に美味しいものが地元で売れないなんてことはありえないと奥津さんは考え、家族みんなで雲仙に移住。
岩﨑さんや、岩﨑さんに続く若い同志だけの野菜を取り扱う「オーガニック直売所タネト」を作ったというわけです。
「おばあちゃんの味」を思い出させる野菜の力
レストラン「BEARD(ビアード)」の原川慎一郎さんも、岩﨑さんの野菜に魅せられて移住してきた一人です。
彼は東京のビストロなどで修業後、オーガニック料理で有名なカリフォルニアの「シェ・パニーズ」をはじめ、様々な出会いを通して食材の大切さを知り、岩﨑さんの野菜にめぐりあいました。初めて岩﨑さんのブロッコリーを食べたとき、彼は細胞に訴えかけるような懐かしさに驚いたと言います。
そして目黒にあった店を閉じ、2020年、港が見える小浜温泉の一角に「BEARD」を開店したのです。
私は原川さんが岩﨑さんの野菜に感動した理由を知りたくて、彼の野菜を使った料理を食べてみました。
1皿目は、平家キュウリとピクルス、イナダにカルパッチョ風のソースを敷いた料理。平家キュウリは岩﨑さんが育てる代表的な野菜で、宮崎県椎葉(しいば)村の平家の落人集落で育てられていたものを受け継ぎ、毎年種を育てている野菜です。2皿目は韓国の在来種のかぼちゃを使ったもの。野菜はどれも力強いながら、過度な主張をせず、優しさが残っていると感じました。
お客さんの中には「おばあちゃんのごはんを食べたときの感覚がよみがえった」と言って、涙する人もいるそうです。
他にも、岩﨑さんの意志を継いだ若手生産者の野菜を使う店「villa del nido(ヴィッラ デル ニード)」が、2019年にミシュランの一つ星に選ばれるなど、影響は大きな広がりを見せています。
約40年前、岩﨑さんがたった一人で始めたチャレンジは、少しずつ仲間を増やして道となり、それが今や四方八方へと広がって、雲仙のガストロノミーの中心になっている。これこそがローカルガストロノミーの力であり、ガストロノミーツーリズムを支える原動力なのです。
この広がりは、今後も勢いを増していくことでしょう。
※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。






