しかし、この論文における「輸出依存度が高い企業ほど、円高時は為替レートの変動により負の影響を受ける」というアイデアを用いた精緻な推定においても、図3で示唆されたような、為替レートが間接雇用の派遣労働者数に及ぼす因果関係の存在が統計的に明らかにされたのである。また、為替レートの労働者に支払われるボーナスへの影響を見た場合も、直接雇用の労働者において統計的に明らかな因果関係が得られた。

 その結果、「間接雇用の派遣労働者は雇用量で調整され、その他の直接雇用の労働者、特に正社員は主にボーナスをはじめとする賃金で調整される」という非対称性が間接雇用と直接雇用の間に確認された。

 この研究の主な貢献は、これまでの既存研究で、正規労働者と非正規労働者の比較がなされることが多かったのに対し、非正規労働者のカテゴリーをさらに、企業に直接雇用される「パートタイム労働者」「臨時日雇い労働者」と、派遣会社を通じて間接的に雇用される「派遣労働者」に細分化した点である。その結果、不況期に調整弁となっているのは、非正規労働者の中でも間接雇用に該当する派遣労働者であることが明らかとなった。

 この分析では、異なる2つのデータをマッチングすることで、同じ企業でも、賃金や労働時間の情報だけでなく、売上高や、間接雇用をされている労働者数など、1つのデータでは得られなかった、より多くの情報を得ることが可能になった。このように、さまざまな方法で分析の精度を上げることで、これまで見えなかった問題を明らかにできることも、経済学の魅力の1つである。

直接雇用と間接雇用では
「調整コスト」が異なる

 上述の分析結果は、直接雇用と間接雇用の間では「調整コスト」が異なることを示唆している。ここで、調整コストとは、雇用量を調整するのにかかるコストを表す。その調整コストの異質性の根源を考えると、直接雇用と間接雇用の労働者がそれぞれ企業内で異なる業務に携わっているという事実が浮かび上がってくる。

 直接雇用と間接雇用の労働者が企業特殊性によって特徴づけられる、異なる業務に携わっているという間接的な証拠を考慮すると、企業が企業特殊的な人的資本を必要とする仕事とそうでない仕事を分離できるようになったことが、働き方の多様化、つまり近年のパート労働者や派遣労働者を含む非正規労働者数の増加を生み出したと解釈することができる。企業がそうすることを可能にする技術的または制度的変化を特定することで、非正規雇用の増加、はたまた雇用の多様化の促進が観察される理由が明らかになるだろう。

 言い方を変えると、この結果は正規と非正規労働者それぞれが異なる仕事に従事していることを示唆しており、もし各労働者が「好き好んで」現在の雇用形態や仕事の種類を選んでいる「Selection」の問題ならば、必ずしも差別として是正すべき課題とはならない。

 その場合、直接雇用における正規労働者のような典型的な雇用形態で働く労働者と、非典型的な雇用形態で働く労働者の間の差異を、企業による、「同質な労働者の差別的な取り扱い」であるとし、その差別を是正しようとする労働政策は、政策効果が限定的なものとならざるをえないことが予想される。

 一方で、機会の不平等が雇用形態の選択に差異を生み出している場合には、格差是正のための政策介入が正当化されることになる。そのため、人々が現在の雇用形態に就いた背景や理由を把握することが、適切な政策立案をする第一歩になるであろう。