このように、日本企業が少数精鋭に絞って人的資本投資をしていることが、男性の賃金格差の上昇を拡大させていると言える。このことは、正規雇用者にのみ企業特殊的な人的資本投資がなされ、それ以外にはなされないということを示唆しており、図1(a)において、男性の非正規雇用者割合が上昇し、(潜在的に企業特殊的な人的資本投資の対象となりやすい)正規雇用者の割合が減少していることとも整合的である。

 本節では、女性のパートタイム雇用者の顕著な増加は、賃金格差の推移において、男女間で異なる傾向をもたらしたことがわかった。しかし留意すべきは、パートタイム雇用者は、非正規雇用者にカテゴライズされるが、企業との契約関係では「直接雇用」に分類されるということである(企業と労働者の間に人材派遣会社などが介在して契約する場合は「間接雇用」に分類される)。「賃金構造基本統計調査」のような直接雇用の労働者しか含まれないサンプルで分析を行うことで、未発見に終わってしまう重要な事実がある可能性もある。

 現に、図1(b)では、近年特に女性において、間接雇用にカテゴライズされる、派遣労働者の数が増加していることが確認された。しかし、その派遣労働者増加の効果は、先の賃金格差の分析では考慮されていないことになる。そこで、次の節では、間接雇用という雇用形態をも考慮した、より精緻な分析を行う。

輸出企業では円高になると
派遣労働者が減らされてきた

 派遣労働者に代表される間接雇用の雇用形態について分析する際に致命的になるのが、派遣労働者のデータは派遣元(人材派遣会社)の企業のものとして記録されるため、派遣先の企業データには彼らの情報が残らないことである。そのような理由で、これまで間接雇用と直接雇用の契約のもとで働く労働者では、何が異なるのかは明らかになっていなかった。

 そこで、「賃金構造基本統計調査」と「企業活動基本調査」とをつき合わせたデータ(マッチデータ)を用いることで、間接雇用と直接雇用の労働者への企業の対応を同時に見ることを可能とし、これまで知られていなかった間接雇用の実態を明らかにした研究を紹介する(Fukai et al., 2024)。