一方、シミュレーション説は、自分に関する知識を用いる方略です。

 ある場面で、自分がどのように考え、感じるか、私たちはそれなりにわかっているつもりなので、それを他者の心にも当てはめるのです。他者の心が自分のそれとは異なるのは、重々承知していますが、それでもなお、自分であったらどうなのかということに基づき、他者の感情や考えを推し量ろうとするのです。

 これら2つの方略は、対立するものではなく、そのときどきの状況に応じて、いずれかが用いられやすくなるという性質を持ちます。

 では、それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。

店員が高額の服を勧めるときは
売り上げ目的に違いない!?

 他者について知っていることを当てはめる方略を、なぜ理論説とよぶのでしょうか。またその特徴はどのようなものでしょうか。次のような例に即して説明しましょう。

 パートナーと一緒に買い物に出た人が、洋服を買おうとして迷っています。そのようなとき、横にいるパートナーが「こちらの方が似合っている」と高額な服を勧めていたとします。その場面を目撃したあなたは、どのように考えるでしょうか。

 よほどのことがない限り、パートナーの言葉は、相手の見栄えに関する配慮や愛情ゆえだと解釈するでしょう。では、同じような言葉を、店員がかけていたとしたらどうでしょうか。「高額な商品を勧めることで、売り上げをアップさせたい」という動機からではないかと疑うかもしれません。

 このような推論は、これまでの経験から築いた知識や、「こういう人は、こう感じるだろう、考えるだろう」というステレオタイプに基づきますが、これらのことを「理論」とよんでいます。

 理論というと、科学の世界では、物理現象の原因を判断したり、起こることの予測に根拠を与えるものなので、大げさに聞こえるかもしれません。しかし、ステレオタイプも、行動の原因の理解や、他者が将来どのような行動をおこなうかの予測に使われます。