たとえば、ネット上で、見知らぬ他者のコメントに対して、批判的・攻撃的なコメントをおこなっている人に対して、「自分に対する自信のなさの表れだ」とか「欲求不満」などの解釈をおこなうことはないでしょうか。

 この解釈の中には、自分への自信の欠如や欲求不満が攻撃的な行動につながるという、心と行動の関係に関する「理論」が含まれています。

 心理学者が、研究知見から人々の行動の背後にある心の働きに関する理論やモデルを作るように、心理学者以外の人々も、行動を生み出す心の働きに関する、自分なりの「理論」を作ります。

 このような理論は、「しろうと理論」とか「フォーク・サイコロジー」とよばれています。

 心理学は科学としての方法論に基づき、心の働きに関する理論やモデルを構築しますが、一般の人々も、自分の経験に基づき、自分なりの理論を作り上げています。科学的な検討ではなく、個人の経験がベースですから、理論の具体的な内容は、人により異なります。

 先ほどの例とは反対に、「攻撃的なコメントは、自信過剰からくる」と考える人もいるでしょう。実際のところ、自信の程度と攻撃との関係は、時と場合によるので、どちらが正しいと決めることはできません。

 ここで重要なことは、正しいかどうかはともかく、私たちは、自分自身が作り上げた「心に関する理論」を用いて、人々の言動を解釈しており、私たち自身の主観の中では、その解釈を、おおむね正しいと考えて、社会生活を営んでいるというところにあります。

私はこう考えるから
相手もきっとそう考えるはず?

 では、もう一方の「シミュレーション説」とは、どのようなものでしょうか。

 こちらは、自分の心に関する知識を基に、他者の心を推し量るやり方です。

「このようなとき、私はきっとこう考えるだろう、だからあの人も……」というように、その場面で自分の心はどういう状態になるのかを考え、それを他者に当てはめるのです。