みんなの絆、ひとりひとりが倍働く、絶対にあきらめない心…などなど、日本人はどうしてもブラック企業的な精神論へ倒錯しがちだが、合理的、科学的に物事を考えられる組織ならばたどり着くのは「優秀な若手技術者の青田買い」という結論だ。

 今の戦力で勝てないということは新しい人材を獲得するしかない。といっても、年収ウン千万をもらうテンセントのエンジニアや、アメリカのテック企業の技術者を引き抜いてくるということは今の日本企業には難しい。年功序列のムラ社会では周囲とのハレーションも予想される。

 そうなると残されているのは、日本の優秀な若者の「海外流出」を防いで、どうにか自社に迎え入れるということだ。

 会社に長くしがみつきたい学生には「ホワイト企業」アピールが効果的だが、先端技術の世界でのし上がっていこうというハングリー精神のある学生に響くのはやはり「初任給アップ」だ。

 少し前、日本の大学生の就職先として人気になっていると話題になった台湾の半導体大手「TSMC」の初任給は日本企業のおよそ1.5倍だという。

 テンセントなど年収数千万円が当たり前の海外のゲーム企業と熾烈(しれつ)な競争をしなくてはいけない、ソニー・インタラクティブエンタテインメントとして初任給42万円など遅すぎたくらいの対応なのだ。

初任給の大幅アップは
「追い出し部屋」よりキツい

 ただ、一方で先ほど触れたような「賃金カーブ崩壊で組織内の序列が崩れる」という問題も懸念されるわけだが、実はこれも長い目で見ると2の《組織を蝕む「働かないおじさん」》を減らすことにつながる。

「働かないおじさん」とは、賃金カーブの恩恵でそれなりの給料をもらいながらも、文字通りに働かない、働いているフリをする中高年社員を指す。「雇用保蔵者」や「社内失業者」とも呼ばれる。

 労組があって理不尽なクビ切りなどがない大企業に多く生息しており、どうにか定年退職という「上がり」まで会社にぶら下がることをミッションとしており、「年功序列社会の徒花(あだばな)」ともいうべき存在だ。

 リクルートワークス研究所の推計(https://www.works-i.com/research/report/item/150731_yosokugraph.pdf)によれば、2025年に雇用保蔵者が415万人にも上り、全雇用者の8.2%に達するというので、実は日本経済にもかなり影響を及ぼしている。

 大企業で「初任給42万」が続々と導入されていけば、そんな「働かないおじさん」のマインドセットが変わっていくかもしれないのだ。