先輩記者たちが
何も教えてくれない理由

 ところがそうやって毎日毎日通っていると、「あれ、いつもはこの時間に席にいる刑事が今日はいないな」と気づいたり、当時警察署の2階にある刑事課の横に掛けられていた伝言板のメモ書きを見て、留置場に入っている人数が増えていることに気づくようになります。

「売防」と書いてあって、これは何かと思えば「売春防止法」のこと。売春容疑の人間が逮捕されたんだな、などということがわかってくるのです。

 なぜ先輩たちは何も教えてくれなかったのか。

 記者として自ら感覚を養わなければ、いくら教えられてもできるようにはならない、という理由もあったでしょう。しかしより大きな理由は、直属の先輩・後輩の関係は、一方で特ダネを取り合うライバルの関係にもあるためです。

 1年先輩の記者としては、後輩にあまり親切に指導して特ダネを自分より先に抜かれては困る。だから手取り足取り、取材について教えたりはしないのです。

 自分が新人の時は「どうして先輩たちは何も教えてくれないのだろう」と不満に思うのですが、1年後に自分が先輩の立場になってみると、詳しく教えない理由がよりはっきりとわかってきます。「後輩に特ダネを抜かれたら恥ずかしいぞ」と思うあまり、遠ざけるかのように「自分で考えろ」と放り出すというわけです。

 新人記者時代には他にも、上司やデスクに提出した原稿が突き返されることが何度もありました。

 しかも「ここをこう直せ」「あの情報が足りないぞ」といった指示は一切なし。とにかく「書き直せ」と言うばかりで、具体的な修正点は何も教えてくれないのです。「どうすればいいんですか?」と尋ねても「そんなのは自分で考えろ」と、返されます。

アナウンサーが実際に読んだ原稿を
夜中コッソリ出社して書き写した

 これは本当につらい作業です。ああでもないこうでもないと考えて書き直し、再度提出するも「前より悪くなった」と言われ、突き返される。