
国民的知名度を誇る「養命酒」を手掛ける養命酒製造が旧村上ファンドの関係者に狙われている。3月下旬に同社の筆頭株主となった投資会社に買い付け資金を提供したのが村上世彰氏の義理の息子なのだ。実は、養命酒製造は財務体質が良い割に業績がじり貧というアクティビスト(物言う株主)にロックオンされやすい典型的な企業。昨年、創業家が経営陣から実質的に外れたことで狙われやすい環境にもあった。今後、旧村上ファンド系資本はMBO(経営陣による自社買収)を提案するとの見方が強まるものの、「すんなりいくのか」との声も出ている。養命酒酒造が狙われた背景を探った。(医薬経済ONLINE記者 吉水 暁)
国民的ブランドに手を伸ばした
村上世彰氏の娘婿
養命酒――。ある世代よりも上ならば、あの赤い独特のデザインの箱に入った養命酒を見たり、飲んだりしたことのある方は多いだろう。第2類医薬品に分類される、いわゆる「薬用酒」。酒によって生薬成分を抽出し、胃腸機能や血行を促進し、人間の体が本来持つ治癒力や回復力を高めることで、疲労などの不調改善につなげるとうたう。
国民的知名度を持つこの養命酒を手掛けている養命酒製造が今、アクティビスト(物言う株主)として名高い旧村上ファンドの関係者に狙われている。3月21日付で「湯沢」という投資会社が筆頭株主に躍り出たが、3月31日付の医薬専門紙『RISFAX』が報じた通り、実は、その湯沢には村上世彰氏の娘である野村絢氏の配偶者・野村幸弘氏が資金を提供しているのだ。
認知度の割に知られていないが、実は養命酒製造は東京証券取引所プライム市場に上場している。同社ホームページ(HP)によると、その起源は古く、1600年ごろに現在の長野県中川村で創始者である塩澤宗閑が養命酒を生み出したことに遡るという。1923年に株式会社化し、塩澤家から養命酒の事業を受け継いだ。そして、戦後まもなくの51年に今の商号である養命酒製造となり、今に至る。
400年以上の歴史を有する老舗らしく、その経営は堅実。無借金経営は業界内でも知られる。長く独立独歩だったが、2005年に大正製薬(現大正製薬ホールディングス)と資本・業務提携を結んだ。大正製薬が養命酒製造の株式6.6%を取得し、養命酒製造は大正製薬の株式0.3%を取得した。
当時の報道によると、養命酒製造から提携を持ちかけたとされるが、大正製薬が「ブランド価値の大きい『養命酒』を狙った、合併含みだったのではないか」との観測もあった。その後、大正製薬が養命酒製造への出資比率を23.73%まで引き上げ、筆頭株主となったことを見れば、その見立てはあながち外れたものではなかったのかもしれない。
両社は長く持ち合い関係となっていたが、23年に大正製薬ホールディングスが発表したMBO(経営陣による自社買収)に養命酒製造が応じたことで、大正製薬が養命酒製造に出資する形となっていた。その状況下で、大正製薬ホールディングスが保有する養命酒製造の全株式を約79億円で買い付けたのが湯沢だった。湯沢とは何者なのか。次ページでその正体とともに養命酒酒造に触手を伸ばした狙いを探っていく。