しかし、生活保護からひとたび脱すると、これらの費用は全て自分で支払わなければなりません。それに加えて、今度は様々な税金や保険料も支払うことになります。したがって、最低賃金程度の時給では、よほどの長時間労働をしない限り、生活保護費を上回る生活水準になることは困難です。「生活保護脱却の壁」と呼んでおきましょう。

 これでは、稼働能力層の人々が、せっかく働いて自立した途端、ワーキングプア(フルタイムで働いているにもかかわらず、生活保護の水準以下しか収入が得られない貧困な就労層)になるぐらいなら、生活保護のままで良いと考えても不思議はありません。

政府の就労支援だけでは
貧困の罠は解消しない

 このように、実は生活保護制度自体が、生活保護受給者の自立を阻害する仕組みを持っているのです。この仕組みは、生活保護受給者が生活保護の囚われの身となって抜け出せないという意味で、貧困の罠と呼ばれています。

 この貧困の罠の問題が解決しなければ、いくら稼働能力層への就労支援の仕組みを整えても、なかなか機能させることは難しいと考えられます。

 例えば、現在、政府は「生活保護受給者等就労自立促進事業」として、福祉事務所とハローワークが一体となった就労支援のワンストップ窓口を作り、稼働能力層などに、キャリア相談、履歴書作成支援、面接指導、職業紹介等を実施しています。また、「被保護者就労準備支援事業」として、日常生活習慣の改善指導、訓練、職場見学、ボランティア活動等を通じて、就労するための準備をする支援も行っています。

 しかしながら、こうした事業への参加は任意で強制されていないため、参加率はあまり高くありません。さらに、就労に向け努力をしている稼働能力層に、就労活動促進費として原則6カ月間、月5000円の一時扶助が支給されますが、この程度の少ない金額では、なかなか動機づけにならないようです。

「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざを引用するまでもなく、貧困の罠という大元の問題を解決し、稼働能力層自ら、自立しようという意欲を持たない限りは、これらの就労支援はなかなか機能しません。