もめる理由の大半はコミュニケーション不足!
エンディングノートが“呪いの言葉”になることも!
――「想いを継承する」というのは、大切なことですね。相続をめぐっては、家族同士がもめる話もよく聞きます。金銭的な価値ばかりに目を向けるから、悲しいいざこざが起こってしまうのでしょうか?
吉州さん そうかもしれません。私は住職として、檀家様やいろいろな方と接していますが、相続をめぐってもめる話は、よく耳にします。話を聞いていると、亡くなられた方の想いが、相続人の皆さんにしっかり伝わっていないケースが多いように感じます。
――吉州さんは、相続問題に関する記事の執筆や動画制作、講演活動などを行っておられますね。
吉州さん そもそもは、ライター兼編集者として東京証券取引所のオウンドメディア「東証マネ部」の制作にかかわっていました。そこで「教えて、お坊さん!“遺産”運用説法」というコラムを連載したのがきっかけです。
私にとって身近な方々の間だけでも、いろいろな問題が起こります。だから、悩んでおられる方々はかなりいらっしゃるはずだと思い、少しでもお役に立てるように様々な活動をしています。
――相続でもめやすいのは、どんな家庭でしょうか?
吉州さん いろいろなケースがあるので一概には言えませんが、普段からあまりコミュニケーションが取れていない家庭は、もめることが多いようです。とくに、親や兄弟姉妹がバラバラに生活している家庭は、全員集まってコミュニケーションを取る機会が滅多にありません。だから「そんなことを突然言われても」と言い争いになるケースが珍しくないようです。
また、親が「子どもたちにけんかをさせたくない」と気を遣って、相続の話をしなかったり、子どもたちは子どもたちで「親が生きているうちに、死んだ後の話をするのはどうか?」と遠慮したり、というのも問題。話し合いができないまま相続を迎えてしまうため、もめがちです。
どちらも相手の気持ちを慮ってのことだと思いますが、その優しさがあだとなって、不幸を招いてしまうのです。気持ちはわからなくもありませんが、生きているうちに話し合う機会を持って、互いの想いをぶつけ合うことが大切だと思います。
――最近では、想いを家族に伝える「エンディングノート」が流行っていますが、もめないようにするのに有効でしょうか?
吉州さん 書き方によると思います。「自分はこうしたい」という一方的な想いを書きつづったエンディングノートを残したとしても、家族は納得しないケースもあります。書かれている内容に不公平感があると、どうしてもふに落ちない「呪いの言葉」になってしまうかもしれません。
もっとも避けたいのは「なぜ、このような分け方をしたのか?」という理由はまったく説明せず、「誰に、何を与える」という指示だけを書き残してしまうことです。理由があれば、たとえ納得できなくても「そういう考えだったのか」と気持ちを理解することはできます。その気持ちを踏まえたうえで、相続人同士が冷静に話し合う雰囲気が生まれるかもしれません。しかし、何の理由もなくただ分け方だけを示されると、意図がまったくわからないので、争いが激しくなってしまう恐れもあります。
――相続人同士が争わないために、何かいい方法はありませんか?
吉州さん 一方的なエンディングノートや遺言を残す人は、自分だけが当事者だと思っているケースが多いようです。でも、いったん相続が発生すると、今度は残された家族の皆さんが当事者になります。例えるなら、ドラマのシーズン1が終わって主役が交代し、3人とか5人の主役たちが、相続で“台本のないドラマ”を新たに演じることになるわけです。
大切なのは、新しい主役たちを困惑させないように、しっかりと引き継ぎを行っておくこと。生きている間に話し合いを重ね、すべての当事者が納得できるような“台本”をまとめ上げることです。
――つまり、エンディングノートを書くにしても、家族の意向をしっかり考慮すべきだということですね。
吉州さん ただ、親の側にいて介護をした人は、離れた場所にいる人よりも遺産を多くもらいたがるといったように、全員が納得のいく分け方は難しいと聞きます。
想いを伝えることがもめない秘訣
――どうすれば、円満な話し合いができるでしょうか?
吉州さん 当事者だけで話合うのではなく、伴走者や仲介者に入ってもらうのも一法でしょう。親族はもちろん、弁護士や税理士、ファイナンシャルプランナーといった士業の方でもいいですし、お付き合いのある銀行や証券会社の方々にお願いする方法もあります。仲介役を立てるうえで大切なのは、“審判”ではなく“通訳”になってもらうことです。当事者ごとの言い争いを審判すると、火に油を注いでしまう恐れがあります。むしろ、互いの言い分を上手に通訳し、円滑なコミュニケーションを促してくれる人が望ましいです。
――結局、コミュニケーションが大切だということですね。
吉州さん それに尽きると思います。なかなか家族全員が集まる機会はないと思いますが、折を見て忌憚のない話し合いを始めてみてはどうでしょうか。対話の極意は、背景にある想いまで受け継ぐこと。それが、家族の未来を豊かにする真の資産運用なのです。








