しかし他方、社員が私生活において犯罪行為を犯した結果、捜査機関により身柄拘束(逮捕・勾留)された場合、当該身柄拘束に伴い当該社員が会社に出社・就労しない事態は(休暇権の有効な行使がなされない限りは)「欠勤」そのものであり、かつ、当該欠勤については、社員自身が犯罪行為を犯したことに起因する以上は「正当な理由」を欠くものであることから、「正当な理由のない欠勤」等の懲戒事由に該当するものとして懲戒処分を科すことも、構成としては十分にあり得るところです。

 実際、過去の裁判例も、捜査機関による身柄拘束に伴う不就労が「正当な理由のない欠勤」等の懲戒事由に該当する可能性を肯定するのが、一般的傾向といえるでしょう。

「正当な理由のない欠勤」を
企業は立証しなければならない

 しかしながら、上記の通り、捜査機関による身柄拘束(逮捕・勾留)に伴う不就労について「正当な理由のない欠勤」等の懲戒事由に該当するとして懲戒処分を行い、当該懲戒処分の有効性が裁判上争われた場合、会社側は「懲戒事由該当性」の立証として、当該欠勤に「正当な理由」が認められないこと、つまり、「当該社員の責に帰すべき事由により捜査機関の身柄拘束を招来したこと」を立証しなければならなくなる、という点には、注意が必要です。

 この点、本設問のように、社員本人が否認しているケースにおいても、他の証拠から上記立証命題について立証する目途が付いているのであれば、「正当な理由のない欠勤」等の懲戒事由に該当するとして、刑事判決を待つまでもなく懲戒処分を行うことも、十分考えられるところではあります。

社員が性犯罪で逮捕、本人は罪を否認…懲戒処分にしてもいい?【弁護士が解説】『社員が逮捕されたときに読む本100問100答』(小鍛冶広道、小山博章、宇野由隆、柏戸夏子、金澤 康、労働開発研究会)

 もっとも、「社員本人が否認していたとしても、わが国の刑事司法は高い有罪率を誇っているのであるから、近い将来において当該社員に対しては有罪判決が下されるはずであって、当該有罪判決が上記立証命題についての何よりの証拠となるはずだ」という発想に基づいて懲戒処分を先行してしまうことについては、慎重な検討が求められるところでしょう。

 前Q&Aで述べた通り、わが国の刑事司法の実態として、確かに検察官が裁判所に起訴した事件に関する有罪率は非常に高いものの、その前段階として、検察官が送致を受けた事件について起訴にまで至るのは全体の半分にも満たず、多くの事件は検察官によって「不起訴処分」とされています。

 そして、不起訴処分ということになりますと、会社は警察・検察による犯罪捜査記録を閲覧することはできません。その結果、不起訴処分になってしまった場合、会社としては、「当該社員の責に帰すべき事由により捜査機関の身柄拘束を招来したこと」という立証命題について、立証する証拠を全く入手できない、という事態に陥りかねないのです。